研究課題/領域番号 |
19K14373
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研究機関 | 京都ノートルダム女子大学 |
研究代表者 |
後藤 伸彦 京都ノートルダム女子大学, 現代人間学部, 講師 (40824959)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会的アイデンティティ / 複数集団成員性 / 実行機能 / ワーキングメモリ |
研究実績の概要 |
人は複数の集団(家族、職場、国)に所属しており、どのような立場から物事を見るかによって、同じ事柄に対してであっても、考えや行動が変わることが知られている。またこのような考えや行動の変化は1日の中で様々な集団(家族、学校、職場)の一員として振る舞うことで頻繁に起る。一方で、このような思考や行動の基盤には実行機能と呼ばれる脳の機能がある。所属集団の数にも、実行機能の機能性にも個人差があることが知られているが、これら両者がどのように関係しているかは知られていない。 そこで本研究は所属する集団の多さと、複数の側面に分解可能な実行機能の、どの側面に関係が見られるかを明らかにすることで、「集団に所属する」という人の基本的な行動と性質についての新たな理解と深い洞察を得ることを目指している。 研究の初年度では所属集団の数と、実行機能のそれぞれの側面に対応した課題成績との関連を検討するための実験プログラムを作成し、実験を実施した。 実験の結果、所属集団の数と実行機能の一部が関連する一方で、関連しない機能もあることが確認された。さらに、会う人の数は実行機能のいずれとも関係しないことが確認された。 本研究の意義は、1.所属する集団の多い人ほど実行機能が高く、所属集団の数と実行機能の関係が頑健であることを確認した。2.これまでの研究では会う人の数と認知機能の間に関係があることが示されていたが、所属集団の数を統計的に統制した後ではそれらの間に関係が見られないことを示した。これにより、実行機能の健全な維持には多くの集団に所属することが重要である可能性が示され、また多くの人と会うことは実行機能との直接的な関係はなく、多くの集団に属することの副産物である可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては所属集団の数と実行機能の関係を調べるための実験の準備、および実施を行った。実行機能を調べるために「更新」機能を反映する文字記憶課題、「シフト」機能を反映するカテゴリスイッチ課題、「抑制」を反映するアンチサッケード課題を作成した。実験の結果、研究代表者の先行研究通り、更新機能は所属集団の数と相関を示したが、それ以外の機能は関連を示さなかった。また研究代表者の先行研究では会う人の多様性と実行機能の関係がないことを確認していたが、本研究では会う人の数も関係しないことを示した。これらの結果は多くの集団に所属するということが、実行機能のなかでも更新の機能と関連していることを示し、文脈の変化によって自己のアイデンティティをスイッチすることが、「シフト」や「抑制」ではなく「更新」によって行われていることを示唆するものである。「集団に所属する」という人の基本的な行動について認知的側面から明らかにした初めての成果である。これらの結果は当初の計画段階で予測した通りである。今後の研究準備についても第二年度で行う予定の所属集団の数と実行機能の関係のプロセスの解明のための質問項目もすでに準備を終えており、予定通りである。論文の投稿については現在、投稿前の最後の修正段階に入っており、近日中に投稿が可能な状態である。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度では初年度に得られた所属集団の数と更新機能の間のプロセスの検討と、相関のデータが実験によっても再現されるかを確認する。プロセスの検討は、所属集団が多くなることによって自己概念の変化が頻繁に起きるようになっているのかを質問紙によって調べる。実験は、自分が所属する様々な集団の視点から物事について考えてもらい、それによって実行機能課題の成績が向上するかを対照群と比較して調べる。 最終年度にはこのような手法が高齢者の実行機能の維持に貢献するかを調べることで、所属集団の数を維持すること、またそれを顕現化することの応用的可能性を探る。つまり、社会問題となっている高齢者の認知機能の低下を、多くの集団に所属することや、単に自分が所属する様々な集団の視点から物事について考えることによって防ぐことが可能かを調べる。 研究代表者はこれらの実験プログラムをすべてオンラインで実施可能なように当初から準備しており、研究の遂行に影響はないと予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は計画していたよりも出張の必要が少なかったため、旅費の支出が予定額より下回った。また実験参加の募集に応じた者が想定していたよりも少なかった。これらは第二年度にウェブや調査会社を通じてより多くの実験参加者を募るための費用として使用する予定である。また論文の英文校正費、掲載料としても使用を予定している。
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