大規模で複雑化した現代社会においては、様々な集団が入れ子状に存在しており、それらの集団間で効率的な資源分配を達成することは重要な課題となっている。本研究は集団間の資源のトレードオフ問題を入れ子型社会的ジレンマとして定式化し、資源分配のパターンを決定づける要因を明らかにする。特に“他者の協力性への期待”と“内集団ひいき傾向”の2つの要因が、入れ子型の社会的ジレンマにおいてどのような資源分配を促進するかを、実験室実験を用いて明らかにする。 本年度は、オンライン実験を用いて、集団間の資源のトレードオフ下で期待が果たす役割を実験によって検討した。まずは単一集団の状況で期待が持つ効果を明らかにする実験を行った。その結果、他者からの期待が明らになる状況では、集団への協力行動が促進されることが示された。 次に集団間の資源のトレードオフを導入した場合に期待が果たす機能に変化が生じるかどうかを、オンライン実験によって検討した。その結果、期待とどの集団に対して協力するかは一致していることが明らかになった。入れ子型社会的ジレンマにおいては、より上位の大集団と下位の小集団が存在するが、いずれの集団に対する協力も促進され、バランスのとれた資源分配状況が実現することが示された。 本研究課題では実験による成果とシミュレーションによる成果を融合させる計画であったが、新型コロナウィルスの影響により実験の実施が最終年度にずれ込んだため、シミュレーション研究に着手することはできなかった。代わりに次善の策として、ビッグデータを用いた解析に着手し、論文や学会発表として成果を報告するなど、一定の成果を得た。
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