どのような方略で学習するかは,学業達成に影響する重要な要因である。また,主体的に学習に取り組むためにも,適切な学習方略を身に付けることは重要になる。これまで,学習方略の使用に影響を与える要因については様々な検討がなされてきたが,学習者が学習中に経験する感情と学習方略使用との関連は,十分な検討がされてこなかった。 まず,小学生を対象に2時点の調査を実施し,算数と国語の授業における学習方略使用と達成関連感情の相互関係について検討した。交差遅延パネルモデルによる分析を行った結果,たとえば,「楽しさ」は深い処理の方略使用を促し,浅い処理の方略使用を抑制することが示された。また国語では,深い処理の方略使用が「楽しさ」を高め,「不安」を低下させることが示された。これら一連の結果から,感情が学習方略の規定要因となりうること,また,意味理解を指向する方略の使用はポジティブ感情を発達させ,ネガティブ感情を抑制することが示唆された。こうした,学習方略の使用と達成関連感情の相互関係は,統制-価値理論(control-value theory)と整合するものであり,効果的な学習方略の使用を促進するためには,学習観や認識論的信念のような認知的要因のみならず,感情的要因にも着目することが重要であると示唆された。 次に,状況的な感情と方略使用の関係について検討するために,小学校4年生の1学級で,算数の1単元の授業を通して,毎授業後に授業中に経験した感情と,授業中の学習方略について測定を行った(全10回)。マルチレベルモデルを用いて,個人内の共変関係について検討を行った結果,楽しさを感じたときほど深い処理の方略使用が促進されることが示された。また,単元を通して楽しさを強く経験した児童や,単元を通して深い処理の方略を使用していた児童ほど,単元テストの成績が高い傾向にあった。
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