人を含めて多くの霊長類は集団を形成する。霊長類は集団内において、他者を個体識別し、それぞれの他個体と社会関係を築く。本研究課題では、他者の顔を識別する能力が、どの程度生得的で、どの程度後天的なのかを探り、動物の中でも際立つ人の社会性の基盤を解明することを目指す。サルの個体識別をした経験を持つサル研究者と一般成人を対象として、成人期における顔の識別能力の柔軟性を検討した。結果として、サルの顔を識別する経験を持っているサル研究者は、一般の成人と比較すると、新奇なサルの顔を識別する能力が高いことが示された。この研究は、成人した後であっても、サルを見る経験を積むことによって、サルの識別能力が向上することを示唆している(Ueno et al. 2021)。 また、ヒトの幼児を対象とした研究では、自閉スペクトラム症児は、顔の配置パターンに注目する傾向があるものの、ASD傾向が強い子どもほど、顔に類似した画像への注視時間は少なくなっていた。そのため、自閉スペクトラム症児は、顔の認識を行いにくい可能性があると示された (上野他 2020)。 また、本研究課題では、ニホンザルの個体識別を行うプログラムを深層学習を用いて開発した。深層学習によって高い精度でニホンザルの識別を行うことができるが、深層学習と逐次ベイズ更新を組み合わせることによって、より高い精度でニホンザルの識別を行うことが示唆された(Ueno et al. 2022)。
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