学習場面において,学習者は何らかの目標を持って学習を行う。達成目標理論では,達成目標の質的違いが学習過程に影響することが想定されている。特に,達成目標は学習者自身の能動的学習活動(自己制御学習)に影響することが示唆されている。自己制御学習では正確な学習判断が重要であり,もし学習判断を誤れば効果的な学習は実現しない。しかしながら,達成目標の学習判断への影響について検討した研究は極めて少なく,達成目標が学習判断にバイアスを生じさせることが明らかになっているものの,そのメカニズムの解明には至っていない。そこで本研究では,達成目標が学習判断にバイアスを生じさせるメカニズムについて検討することを目的とする。 研究初年度である令和元年度では,達成目標のどのような要素が学習判断にバイアスを与えるのかを2つの実験を行い検討した。その結果,遂行接近目標でも特に他者比較の要素が含まれている場合,習得接近目標が与えられた場合に比べ記憶成績は低かった。これに対して,学習判断には明確な差はなく,学習判断にバイアスが生じていたといえる。一方で,遂行目標の自己呈示の要素については,学習判断,記憶成績ともに習得接近目標が与えられた場合と明確な差は検出できなかった。この結果は,学習判断のバイアスは遂行接近目標における他者比較要素が一因となっている可能性を示唆するものである。ただし,この結果は当初の想定とは一致するものではなく,より詳細な検討が必要になると考えられる。
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