学習場面において,学習者は何らかの目標を持って学習を行う。達成目標理論では,達成目標の質的違いが学習過程に影響することが想定されている。特に,達成目標は学習者自身の能動的学習活動(自己制御学習)に影響することが示唆されている。自己制御学習では正確な学習判断が重要であり,もし学習判断を誤れば効果的な学習は実現しない。しかしながら,達成目標の学習判断への影響について検討した研究は極めて少なく,達成目標が学習判断にバイアスを生じさせることが明らかになっているものの,そのメカニズムの解明には至っていない。令和2年度では当初の研究計画に従い,達成目標が直接メタ認知的判断にバイアスをもたらすかを達成目標に関する信念の観点から検討した。 令和2年度では,当初計画していた実験と追加実験の計5つの実験を行った。その結果,学習前にもかかわらず,遂行接近目標が教示された場合,習得接近目標が教示された場合に比べてメタ認知的判断が高くなることが示された。さらに,メタ記憶系列位置曲線の観点から,メタ認知的判断における目標間の差は学習経験によって調整されない可能性も示唆された。加えて,仮想実験に関する文章(習得接近目標が与えられて学習するグループと遂行接近目標が与えられて学習するグループが記憶課題に取り組む)を読んだ後で,各グループの成績を予測させたところ,遂行接近目標条件の方が,習得接近目標条件よりも予測は高かった。この結果は,遂行接近目標が習得接近目標に比べて学習にとって有益だという信念を持つ傾向があることを示唆するものである。また,学習中の努力に関する研究として,達成目標が符号化方略に与える影響について検証した論文が出版された。
|