研究実績の概要 |
内受容感覚とは,空腹,体温,心拍などの身体内部の状態を知覚することである。内受容感覚は,他者とかかわる上で必要となる社会的認知や,子どもの生存可能性を高める養育行動に寄与している可能性が議論されている。しかし,これまでの研究は成人対象のものがほとんどであり,発達初期において内受容感覚が社会的認知発達に果たす役割は明らかでない。本研究では,乳幼児を対象に,社会的認知発達における内受容感覚の役割を実証的に解明する。更に,養育者 (母親) の内受容感覚の個人差が,養育行動に及ぼす影響を明らかにする。 先行研究では,青年・成人において内受容感覚と社会的認知の関連性を検討し,内受容感覚が高い者は,表情伝染が起こりやすく,アイコンタクトによる表情模倣の促進効果が大きいことがわかった(Imafuku et al., 2020 Scientific Reports)。また乳児期においても内受容感覚の個人差の存在が認められていることから(Maister et al., 2017),乳児の内受容感覚の個人差が社会的認知発達と関連している可能性が考えられる。 本研究では,乳児と母親を対象に内受容感覚の個人差を測定し,母子相互作用場面における社会的行動との関連性を検討することで,社会的認知発達における母子の内受容感覚の役割を明らかにすること目的とした。乳児から大人まで内受容感覚を同一指標で評価するために,新たな行動測定指標を開発した。この行動測定指標 を用いて,乳児と母親において内受容感覚の個人差を評価できることを確認した。本研究の結果,内受容感覚の敏感さが高い乳児は,母親の笑顔が多く,相互作用場面で社会的行動(アイコンタクト等)を多くすることがわかった。このことは,乳児期においても内受容感覚が社会的認知と密接に関与していることを示唆する。
|