本研究の目的は、合唱活動に積極的にかかわる変声期前後の男子児童生徒に着目し、合唱団というコミュニティの役割と教育的機能を明らかにすることであった。従来の子どもを取り巻く歌唱活動を取り扱う研究では、例えばクラスの中で対象児童が他の児童と共に歌唱活動に参加するための教材研究や指導法の開発が中心であった。本研究では、児童期の歌唱活動に注目し、心身の成長が著しい時期に自己受容の過程を支えるコミュニティとしての合唱団の機能を明らかにすることを本研究の最終目標として研究を開始した。 2019年度は「変声期」の声についてのインタビュー調査を実施し、その分析過程では声が人間のアイデンティティと密接に関係していることが示唆され、子どもの合唱活動の参与調査によってより多角的に検討することとした。 しかしながら2020年からの新型コロナウィルス感染症拡大という予想しない事態に見舞われ、合唱活動、とりわけ子どもの活動に入ることが難しくなり研究の方向性と進め方を大幅に変更する必要が生じた。2022年度以降は、心身共に成長していく児童期における合唱というコミュニティの役割と教育的な機能を明らかにすることを目的とし、最終年度となった2023年度はコロナ禍を経て新しく児童合唱団を立ち上げるコミュニティーに密着し調査を行った。参加する児童ならびに運営側の指導者へのインタビューや合唱団の創設のプロセスを検討することを通して、特にコロナ禍以降、子どもたちが合唱団やそれに準じたコミュニティに求めるものや参加方法が複雑化していることが明らかとなった。一方で運営側は「いまここ」を大切にしつつも持続可能なコミュニティの中で培われる音楽や関係性をどのように発信し合唱活動として展開していくかという点に苦慮していることも同時に明らかとなった。研究成果は現在論文としてまとめており2024年度中に投稿予定である。
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