研究課題
本研究の目的は、不登校経験者を積極的に受け入れる通信制高校をフィールドとして、学校における居場所づくりの実践と論理を明らかにすることである。学校教員への聞き取り調査からは、「居場所」や「支援」等を心理職による専門的支援として受け取る教員と、教育的な関わりをもつ場所づくりとして意味づける教員とが存在していることがわかった。また、関連施設への簡易アンケート調査から、教員は生徒同士の対人関係支援や自己内省を促す指導を充実させているが、生徒自身による意思決定を尊重・促進する場面が限られていることが分かった(神崎・鈴木,2022)。今後は、学校生活において様々な事柄を決定していく交渉過程を調査することが必要である。生徒の観察とインタビューからは、小説や映画といったシンボリックリソースが生活を指させる強力な媒介となりえていること(神崎・鈴木,2021)、また通信制高校で多様な背景をもつ人々と出会うことで「普通」とみなされる常識や社会的な声から距離をとっていくプロセスがあることを見出した(神崎,2022)。一方で、漠然とした社会への抵抗や未来への不安を抱えつつ、進路未定のまま学校を卒業していく生徒がいることも分かった。今後は、高校生の居場所と時間展望に焦点をあてて調査を進める。本研究は、校内のビデオ録画を通して生徒の佇まいや立ち振る舞い、環境との関係性を「居方」という概念でもって捉えていくことが主たる研究課題であったが、コロナ禍の影響もあって録画ができなかった。本年度は学校における居場所の物的環境について調査を行い、生徒・学生が心地よいと感じる空間的特徴を明らかにした(Kanzaki & Mustika, 投稿中)が、人と環境の相互作用は扱うことができなかった。コロナ禍におけるフィールド調査のあり方は今後も検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
録画による調査は実施できなかったが、代替として質問紙調査や聞き取り調査を行うことができたため。
生徒の学校生活における決定場面と、進路に焦点をあてて調査を進める予定である。
コロナウイルス感染症により学会等がオンライン開催となり、旅費が当初の計画よりかからなかったため。また、データの整理と手続きを行ったうえで学生アルバイトを雇用する計画であったが、事前整理が間に合わなかったため。翌年度は、学生アルバイトを雇用して予定していたデータ整理を行い、自己決定に係る分析を集中的に行う。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
NISSEM Global Briefs: SEL in context
巻: 3 ページ: 2-15
発達心理学研究
巻: 32 ページ: 113-123
京都教育センター 高校問題研究会会報
巻: 2 ページ: 73-83