本研究の目的は,情動強度に応じた,他者のネガティブな情動を効果的に調整可能な方略を解明することである。具体的には以下の調査を実施した。まず,オンライン上で,情動調整の受け手の参加者が,自分が最近ネガティブ情動を感じた出来事とその時の自分の気持ちを記述し,情動調整の与え手の参加者に向けて送信した。その際に,その出来事のネガティブ度を5段階で評定した。そして,情動調整の与え手の参加者が,他の参加者が書いた記述の内容を読み,その人のネガティブ情動をなるべく和らげるような返信を書いた。その後,受け手の参加者は返信内容を読み,「返信を読んでネガティブ情動が和らいだ程度」を5段階で評定した。 得られたテキストデータのうち,「用いられている他者の情動調整方略」に関して,第三者の評定者が,その方略の種類と数に関するコーディングと集計を行った。そして,データ分析を行った結果,気持ちが分かると相手に伝えて寄り添う方略である「共感的応答」は,受け手のネガティブ情動の強度にかかわらず効果的に働くことが明らかになった。一方,状況を改善するアドバイスを行う「問題解決」と,考え方を変えるように伝える「再評価」に関しては,受け手のネガティブ情動が強い時はこれらの方略は効果的に働かない一方で,受け手のネガティブ情動の強度が比較的弱い時に限り効果的に働くことが示された。 本年度は,これらの研究成果に関して論文を執筆し,この論文が,感情心理学のトップジャーナルである『Emotion』誌に掲載された。論文に関しては,幅広い読者に読んでもらえるように,オープンアクセス化を行った。本研究は,「自己の情動の調整」と「他者の情動の調整」の類似点と相違点を明らかにすることで,近年注目を集める「他者の情動の調整」研究の新たな進展に貢献したものである。
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