最終年度は,夫婦関係や恋人関係の暴力予防に資する変数を検討するため,親密な関係を抽象化した関係性スキーマとしてアタッチメントスタイル,恋愛関係外の第三者へのサポートの様相,一人でいることへの懸念に注目した調査を実施した。具体的には,夫婦ペアや恋愛関係を対象とした2つのWebパネル調査を実施し,恋人間暴力の抑制要因や助長要因を検討した。また,前年度までの研究成果を,日本心理学会や日本グループダイナミクス学会などで発表するとともに,民間の婚活会社のコーディネーターや社会連携コーディネーター,高等学校教諭などと情報交換をし,恋愛関係や夫婦関係における暴力の予防的介入の社会実装に関する議論を重ねた。 研究期間中にCOVID-19の発生や流行による研究の制約や大学内業務の多忙化,恋愛関係の様相の一時的な変化が生じたことから,介入研究を十分に行うことはできなかった。そのため,研究機関全体を通じた研究成果は十分とは言い難いものである。しかし,研究の過程で得られたデータや研究知見から,研究期間中に査読付き学会誌への掲載や書籍の執筆,複数回の学会発表を行い,研究の学術的発信を行うことはできた。また,継続して民間企業や学校教諭,NPO団体関係者,クリエイティブ・ディレクターなど様々な立場の人々と恋人間暴力の予防的介入や恋愛関係を対象とした教育の可能性について議論を重ね,介入のための実践を試行することができた。これらの試行を通じて,介入や教育の必要性,社会的インパクトや波及効果の生み出し方,ターゲットへのリーチの仕方について一定の方向性を見出すことができた。
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