今年度の研究では、不安を軽減する際に必要となる不安を感じる場面に踏み出すことへの動機づけに影響を及ぼす要因を検討した。先行研究で示された理論からは、苦痛を感じていることそのものが行動の変容や健康改善への動機づけとなることが示されている。そのため、不安が高い対象者は、不安軽減に対する動機づけが基本的には高いと推察される。以上の論を踏まえ、不安の程度や健康改善への意識、健康改善に向けた行動との関連性を検討した。 その結果、不安が高い群よりも低い群において健康改善への意識が高いことが示された。また、実際に健康改善に向けた行動を取っている群と取っていない群を比較した結果、行動を取っている群において不安の程度が低く、健康改善への意識が高いことが示された。さらに、健康改善に向けた行動を取っていない群においてその理由を尋ねた結果、「何をして良いかが分からない」という情報の不足が最も理由として多いことが明らかとなった。 以上より、健康改善への動機づけは不安が高ければ必然的に高いのではなく、健康改善に向けた行動に必要な情報を事前に提供することにより高まる可能性が考えられた。 4年間に渡って実施してきた研究成果から、不安を感じる場面に対して行動に踏み出すことは不安軽減を図る上では必須であることが一貫して示された。一方で、その困難に向き合うためには、行動を促すための言葉がけが必要であることも示された。具体的な言葉がけの内容として「不安はより良く生きたいという欲求の裏返しで生じる」ことの伝達により不安への否定的な見方を転換することや、家事などの各種生活関連動作の実施が有用であるといった行動指針の提供が有用であることが示された。これにより、自己受容が促されつつ不安軽減への見通しを持ってもらうことが可能となり、不安に向き合う動機づけの向上に寄与すると考えられた。
|