乳がん患者のうつ病に限らず、遺族のうつ病・複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)にも対象を広げることとした。大切な人との死別は、人生における最も深刻なストレス因の1つであり、死別による喪失感に対する反応は悲嘆反応と呼ばれ、誰しも経験しうる正常な反応であり、6カ月程度をピークに軽減するといわれている。しかし、悲嘆反応の程度や期間が通常の範囲を超えて日常生活に支障をきたし、うつ病・複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)となる場合がある。これから多死社会を迎える日本において、日本の遺族のうつ病・複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)に対する心理療法の確立・普及は喫緊の課題と考えられた。そのため、遺族のそれらの疾患に対する対人関係療法(Interpersonal Therapy: IPT)マニュアルの開発に特に注力するようになった。倫理審査委員会での承認を得た後、遺族のうつ病・複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)に対してIPTを実施しながら、日本文化特有の慣習や死生観に合わせた治療戦略を用いた、日本文化に適用させたIPTマニュアルを開発した。そのマニュアルを用いて遺族に対してIPTを実施し、2022年度には死別関連うつ病に対するIPTの症例報告、2023年度には遷延性悲嘆症に対するIPTの症例報告を、それぞれ英文雑誌に発表した。また、2023年度には、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)等が併存している死別関連うつ病に対するIPTのパイロット研究を英文雑誌に発表し、日本文化に適用させたIPTの実施可能性、安全性および予備的有効性を示した。
さらに、慢性うつ病に対するIPTを実施する上で、慢性うつ病の女性患者における「夫婦関係の苦痛をもたらす要因」を明らかにすることが役立つと考えた。そこで、慢性うつ病の既婚女性の夫婦関係の苦痛に関連する夫婦関係の特徴について、オンラインアンケート調査を行い、2023年度にはその結果を英文雑誌に発表した。
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