内受容感覚の予測的処理が身体と感情との関係性を理解するモデルとして注目されている。 近年,身体感覚の違和感を訴える高齢患者が多いものの,加齢と内受容感覚との関係性に不明な点が多く,内受容感覚の機能不全が加齢や認知機能の低下に起因するのか身体症状症に起因するのか鑑別が難しい。本研究課題では,計算論アプローチによって1)健常高齢者を対象に「内受容感覚予測の修正困難さ」を測定する課題を作成する。2)身体症状症患者と健常者を対象に内受容感覚予測の修正困難さと関連する脳神経基盤を明らかにする。3)身体症状患者を対象に1)で作成した課題が身体症状症の重症度を予測するかを検討する。 2022年度は上記2)と3)を行うために50歳以上の身体症状症患者と年齢と性別が対応した被検者にデータ収集を行なった。対象者に心拍カウント課題の試行ごとに内受容感覚の正確性をフィードバックし,内受容感覚予測の修正困難さを測定する心拍カウント課題と安静時の脳機能結合を測定する安静時のfMRI撮像を実施した。解析の結果,内受容感覚の正確性は,患者群と対照群では統計的有意な差はみられなかったが,フィードバック前後の差分値に統計的有意差がみられ,患者群は対照群に比べて内受容感覚は修正されなかった。また,脳機能結合では,内受容感覚の修正困難さは,左島皮質と小脳虫部9と負の相関がみられた。また,定性的解析では,身体症状症が重症なほど,上記1)で作成した課題を達成できなかった。 研究期間全体を通して,上記3つの目的を達成した。具体的には,内受容感覚予測の修正困難さを測定する課題を作成し(上記1),内受容感覚予測の修正困難さは,身体症状症患者では島皮質ー小脳の安静時機能結合の低下と関連しており(上記2),上記1)で作成した課題が身体症状症の重症度と連関すること(上記3)を明らかにした。
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