本年度は,北海道の医療機関にてR4年度以降に取得したデータの分析を行い,その成果を第14回国際早期メンタルヘルス介入学会(14th International Conference on Early Intervention in Mental Health,2023年7月,ローザンヌ,スイス)において発表するなど,研究期間を通じて初めて海外での国際学会に対面で参加し,他国の研究者らと情報交換をすることが出来た。データの分析結果からは,通院中の14歳~35歳の患者167名のうち,サイコーシスリスクシンドローム構造化面接(SIPS/SOPS)によって減弱精神病症候群(APS)の診断名が新たに付いた患者は9名であった。これらのAPS患者の年齢は全員が18歳以下であり,14歳が4名と最も多く,次に15歳が3名であった。さらに,APSの診断名のついた9名のうち,自閉スペクトラム症(ASD)の併存疾患を有する者が約半数(4名)いた。また,学校での対人関係の問題を主訴として受診した患者が6名,家庭での虐待や暴力などを主訴とする者が2名いた。 本年度の成果と,これまでの研究期間を通じて,以下のことがより明らかになった。 1) ロールシャッハ・パフォーマンス・アセスメント・システム(R-PAS)の結果からは,APSに共通するパーソナリティ機能として,対人知覚の歪みと社会機能の低さが明らかになった。 2) APSの先行研究の多くは,15歳以上を対象に実施されてきたが,日本においては中学入学後の13歳あたりからの精神的不調がAPS発症につながる場合が多い。 3) 学校での対人関係のトラブルから精神的不調をきたし,メンタルクリニックの受診につながるAPS患者が多い。 4) APSの併存疾患としては,ASDが最も多い。
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