日常生活場面におけるASD児とその保護者・支援者との間で取り交わされるコミュニケーションの過程の分析により,対人関係を基盤とするQOL(Social Interaction related QOL:SI-QOLと名付けた)を向上させる変数を明らかにし,コミュニケーション支援技法を開発することを目的とする。そのために,①日常生活場面におけるASD児の保護者・支援者の対人刺激を手がかりとした社会的行動が維持・強化される条件の検討と②保護者・支援者の「ASD児の対人刺激を手がかりとした社会的行動を強化する行動」が維持・強化される条件の検討,③①,②によって明らかになった条件を反映させたコミュニケーション支援技法の効果の検証を行う。 2022年度は,2019から2021年度で明らかになった条件を反映させたコミュニケーション支援技法の効果検証を行った。2019から2021年度で明らかになった条件をもとに,対象児の選好のテーマについて会話を行うコミュニケーション支援プログラムを実施した。具体的には,大学生スタッフが対象児の発話に対して,肯定的な応答を行う活動を反復実施した。SI-QOLの評価には,日本語版のKid-KINDLRを使用して評価を行い,研究実施前後の対象児と保護者の得点の差を分析した。その結果,対象児のKid-KINDLRの得点が向上した。以上のことから,ASD児の対人刺激を手がかりとした社会的行動が維持・強化される条件と,ASD児の保護者の「ASD児の対人刺激を手がかりとした社会的行動を強化する行動を組み込んだコミュニケーション支援技法を実施することで,ASD児のSI-QOLが向上することが明らかになった。ASD児の選好のテーマについて会話を行うことで,ASD児と他者のコミュニケーションが成立し,関係性も深まり,幸福感・満足感が高まると考えられた。
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