過去に経験した出来事の順序についての記憶を時間的順序記憶という。本研究では、ラットの時間的順序記憶の記憶処理過程(記銘、固定または検索)における、腹側海馬、背側海馬、内側前頭前野(mPFC)の役割について行動薬理学的手法を用いて検討することを目的とした。 本研究で使用する自発的物体再認パラダイムを用いた時間的順序記憶課題は、使用する項目数や遅延時間などの条件によって、課題成績が異なることが報告されている。そこでまず、自発的物体再認パラダイムを用いた時間的順序記憶課題についてラットを被験体として適切な実験条件を検討した。課題は2回の見本期と1回のテスト期から構成されており、各見本期でラットは2つの同一物体が置かれたオープンフィールド内を5分間自由探索した。2回目の見本期(見本期 2)では、1回目の見本期(見本期 1)とは異なる物体が提示された。見本期 1と 2の間の遅延時間は1時間であった。そして、見本期 2の1時間後にテスト期を開始した。テスト期では、見本期 1と 2で提示されていた物体が1つずつ置かれたフィールド内を被験体に5分間自由探索させ、各物体への探索時間を測定した。その結果、ラットはより以前の見本期で探索した物体(見本期1の物体)を、テスト期において有意に多く探索していた。このことから、ラットはこの課題において時間的順序を弁別できることが示唆された。これにより、本研究で使用する時間的順序記憶課題の条件を決定することができた。そのため、今後この課題を用いて脳内薬物投与実験を行い、ラットの時間的順序記憶課題の記憶処理過程(記銘、固定または検索)における、腹側海馬、背側海馬、mPFCの役割について検討することを予定していたが、2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響等で実験を進めることができず、さらに、所属機関退職に伴い本研究課題を中止することとなった。
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