研究実績の概要 |
本年度は,研究最終年度としてこれまでの研究で得られたデータの再分析と再考察を行い,研究成果のまとめを行った。一連の実験では,明瞭な背景上にオブジェクトが配置された刺激画像を用い,その刺激画像に対して面積の異なる3種類ののぞき窓を持つ黒い枠状の画像を重ねて表示した。この手続きにより,視覚刺激の撮影距離やオブジェクトの大きさを変更することなく,情景内でのオブジェクトが占める領域の相対割合を操作することが可能となり,画角の違いによるクローズアップ画像とワイドアングル画像を同一の視覚刺激から作成することができた。この視覚刺激の操作は本研究のオリジナルな手続きであり,知覚された境界を検討するという境界拡張実験の課題にふさわしい手続きであった。このような刺激呈示に対して実験参加者の反応様式として,上下左右に呈示された線分を知覚された境界位置に調整する視覚判断条件と,知覚された境界位置に対してポインティングを行う運動判断条件の2種類を設定した。実験の結果,運動判断条件では視覚判断条件に比べて知覚された領域が狭くなった。Intraub & Dickinson,(2008)のmultisource model of scene perceptionでは情景知覚では複数のモダリティからの情報を統合する表象形成メカニズムが仮定されているが,本研究の実験では入力モダリティとしては視覚系のみであるが,出力に際しては視覚系のみを使用する条件と視覚系と運動系の協応を必要とする条件が設定されていた。このことを考えると,従事する課題によって反応出力に必要とされるモダリティが異なることが知覚される領域を変更させる要因になっていると示唆された。つまり,外界へのアクセスを伴う場合には,身体運動と外界の環境との関係を調整するために視覚表象を調節するメカニズムが存在すると考察された。
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