研究課題/領域番号 |
19K14478
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
石川 健太 専修大学, 人間科学部, 兼任講師 (20816334)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社交不安 / 表情表出 / 感情 |
研究実績の概要 |
我々は作り笑いや愛想笑いなど,本心とは異なる表情を他者との関わりのなかで浮かべる。社交不安は,社会的状況下で,恐れや不安を感じることを特徴とする精神疾患である。社交不安をもつ人にとって,これらのネガティブな感情を他者に伝えることは,他者からの否定的な評価に繋がる。本研究では,社交不安をもつ人は,偽りの表情を使うことで,向社会的な評価を受け,他者からの否定的な評価を避けるという仮説(社交不安における表情による感情隠蔽仮説)を提案した。この仮説を検証するために,本研究では社交不安傾向者の表情表出が,他者からの評価に与える効果を検討する。否定的な評価を避けるために,表情による感情隠蔽を行うことは不安からの回避行動であり,不安症状の維持,悪化に繋がる恐れがある。表情による感情隠蔽を明らかにすることは,症状の維持要因の解明,行動の修正による不安症状の低減など,臨床場面への応用が期待できる。
2019年度は表情刺激の作成と感情隠蔽仮説の検証を行った。表情刺激の作成においては、社交不安の強さを測定した96名の写真モデルから、怒り顔、笑い顔、中立顔の表情を作成した。この表情刺激を用いて、印象評定課題を実施した。実験の結果,本研究仮説を一部支持する結果が得られ,社交不安傾向が高い男性ほど,社交性が高く評定された。一方,女性では社交不安の高さと社交性の間に関連はなかった。申請者は,本研究成果を論文としてまとめ国際的な学術雑誌に投稿したが,残念ながら採択には至らなかった。現在は,査読者から受けた研究課題の修正を行い,改めて感情隠蔽仮説の検証を行うための実験準備を行っている段階である。また,本研究課題の過程において、新たに着想を得た、他者の視線情報処理と社交不安障害に関連した実験を実施することもできた。これらの研究成果は日本心理学会第83回大会,the Psychonomic Society's 60th Annual Meetingで発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表情刺激の作成には、写真モデルのリクルートや撮影など、困難が伴う。しかしながら、当初予定していた96名の顔写真のモデルのリクルートに成功し、表情刺激を作成することができた。そして、この表情刺激を用いて、感情隠蔽仮説を検証するための実験を実施することができた。さらに実験の結果、社交不安傾向が高い男性ほど、社交的に評価されることが示唆された。またこうした傾向は、怒り顔などの表情でより強く表れることが示唆された。一方、女性では社交不安の高さと、社交性の評価に関連は見られなかった。これらの結果は、社交不安が高い人は、自分自身の不安や恐れなどを隠すために、表情を用いて肯定的な評価を他者に与えようとするという表情隠蔽仮説を概ね支持する結果であった。本研究成果をとりまとめ、国際的な学術雑誌に投稿したが、採択には至らなかった。しかしながら、査読者の指摘に基づき、追加のデータを取得するための準備は整っている段階であることから、本進捗状況の評価を行った。
本研究成果を論文としてまとめ、国際的な学術雑誌に投稿した。査読においては、編集者や査読者が論文の採択を決定するものであるため、必ずしもこちらの予測通りになるとは限らない。本研究においても,残念ながら採択には至らなかった。しかしながら、査読者から受けた指摘のなかには、今後の研究に役立つようなものがあったため、本研究の問題点を改善し追加のデータを取得する予定である。
新たな実験の準備はすでに完了しており、データの取得を行う段階に至っている。今後、実験を実施し感情隠蔽仮説を支持するデータを得られることができれば、本研究の結果の頑健性を支持することにつながり、より説得力のあるデータの解釈が可能になると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に取得したデータに基づき、追加データを取得する。実験計画は昨年度に行った実験と類似した手続きであるため、実験機器や実験刺激の大幅な変更はなく、準備はすでに整っている段階である。具体的には、社交不安傾向者の表情刺激を用いた評価課題を実施し、社交不安の強さと評定者が行った印象評価との関連を検討していく。また、実験2として、社交不安傾向者の表情表出について、表情の左右差の観点から検討を行う予定である。
さらに作成した表情刺激について、EkmanらのFacial action coding systemに基づいた解析を行う予定である。従来のFacial action coding systemのコード化は、熟達したコーダーが行うため、非常に手間がかかるものであった。しかし、ケンブリッジ大学のMulticomp groupが作成した表情解析ツール(Open face)を利用することで、表情のコード化が簡便に行うことができる。Open Faceを使い、社交不安傾向者の表情表出の解析を進めていく。
これらの研究結果を取りまとめることによって、社交不安傾向者の表情による感情隠蔽仮説を検証する。表情表出は最も頻繁に用いられる非言語的なコミュニケーションの一つである。表情表出の観点から、社交不安傾向者の特性を明らかにしていくことは、社交不安障害の維持要因の解明や介入方法の提言に役立つ。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画において参加予定であった学術大会や研究会が、新型コロナウイルス感染拡大防止のため開催が中止となり、参加を断念せざるを得なかった。また、購入予定であった実験機器の納期が、大幅に遅れたこともあり未使用額が生じた。今年度生じた未使用額については、速やかに実験機器の納入を済ませると共に、次年度に学術大会の発表を行うための経費として充てる。
実験の実施やデータの解析を行う大学院生のアルバイトで支払う謝礼が必要である。実験機器の操作、適切なデータの取得や解析には専門的な知識が必要である。そのため、一般的な学生のアルバイトよりも高額な謝礼が必要であると考える。
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