本研究は,生後3-8ヶ月の乳児を対象に,逆向マスキングを用いてrecurrent処理の発達過程を検討することを目的とした。昨年度までの実験により,生後3-6ヶ月児ではオブジェクト置き換えマスキングが生じず,7-8ヶ月児がマスキングによって知覚できない刺激を知覚できていることが明らかになった。この結果は,生後半年頃まではrecurrent処理が未発達で,フィードフォワード経路主体で視覚情報を処理している可能性を示唆する。本年度は,この知見をさらに発展させるために,異なる種類の逆向マスキングであるメタコントラストマスキングが生後3-8ヶ月の乳児で生じるかどうかを検討した。メタコントラストマスキングはオブジェクト置き換えマスキングと類似のマスキングであるが,両者が同様のメカニズムで生じるかどうかは明らかでない。もしメタコントラストマスキングとオブジェクト置き換えマスキングが類似のメカニズムで生じるならば,その発達過程も同様なものとなる可能性がある。実験の結果,オブジェクト置き換えマスキングと同様に,生後7-8ヶ月児ではメタコントラストマスキングが生じたが,生後3-6ヶ月児ではマスキングが生じず,マスクされた視覚刺激を知覚することができた。この結果から,メタコントラストマスキングの生起メカニズムにも,オブジェクト置き換えマスキングと同様に,recurrent処理の干渉が関わる可能性が示唆された。 また本年度は,昨年度までに実施した研究の成果が国際誌(PNAS)に掲載された。
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