本研究は,感情認知における身体性の役割・関与について検討することが目的であった.2022年度に扱ったのは主に以下の点であった. 行為主体感と感性印象:「自分がその行為を行っている」という感覚 (行為主体感) が外界物体への印象にどのように関与するのかを検討した.特に複数の印象を測定することで行為主体感とそれらがどのように関与するのかを検証した.また,行為主体感とそれらの印象を測定する際に間接指標を用いることで、反応バイアスを回避することができた.これらの研究を通して,行為主体感が感情などを含む感性印象の形成の一助になっていることを明らかにした. 行為方向と感情処理:ヒトは自身の空間の上下左右と感情の快不快を結びつけている.このような空間と感情の結びつきは行動にも現れる.これまでの研究より,上下と感情の連合は多くの場合で顕著に見られてきたが,一方で左右と感情の結びつきについてはたびたびその効果が顕著ではないことが報告されてきた.そこで,空間と感情の結びつきについて,垂直軸と水平軸でその顕著性に違いが見られるかを直接的に検討した.結果として,感情の快不快は上下方向の行為などを安定して誘発するのだが,水平方向については本研究では確認されなかった.このことは,感情処理に行為そのものだけではなく,行為の質(本研究では方向の差異)も関わることを示唆する.
上記2つの研究については,国内外の査読付きジャーナルに現在投稿中である.また,研究期間を通して身体性と感情の繋がりに関する研究およびその関連研究について精力的に成果を報告し,査読付き事前登録のプロトコル採択を含めて査読付き論文を19本(今年度は4本),プレプリントを含む査読なし論文を21本 ,書籍5本 (今年度は1本) を出版し,47件の学会発表 (今年度は9件) を行った.
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