研究課題/領域番号 |
19K14485
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
結城 笙子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (60828309)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | メタ認知 / 確信度 / 行動の適応制御 / ヒト / ラット |
研究実績の概要 |
メタ認知とは、自身の内的な状態について監視し、またその結果に基づいて認知・行動を制御するプロセスであり、柔軟で複雑な行動最適化を可能とする。従来のメタ認知研究では、ヒト成人を対象とする場合は特にその監視過程が、動物や乳幼児の研究では制御過程が注目されるなど、研究対象によって注目される側面が異なるため、得られた知見を単純に比較・統合することが難しいという問題があった。 本研究の目的は、従来はヒト成人と動物や乳幼児で独立に進められてきたメタ認知研究を、比較認知科学的アプローチによって統合し、メタ認知の自身の内的な状態を監視し、確信度を生成する監視過程と、その確信度を適切な認知・行動の制御に反映する制御過程に関与する神経基盤を分離・精査することで、記憶確信度という内的な情報に基づいた適切な方略制御を実現する神経基盤の全体像を解明することである。 計画2年目にあたる本年度は、昨年度確立したメタ認知の監視を切り分けるための行動課題を用いて、行動レベルでの監視過程と制御過程の関係性を精査した。昨年度の予備実験と同様に、本年度も実験時の教示を切り替えることで、同一のヒト成人の実験参加者内で、 課題自体の構造は維持したまま、課題中のメタ認知に基づく行動選択を変化させ得ることを、より多くの参加者群に対して確認した。さらに、教示の切り替えが参加者の行動に与える影響について精査したところ、メタ認知を行う対象となる基礎課題の正答率は教示の違いの影響を受けなかった。この結果は、教示の切り替えの影響はメタ認知特異的なものであることを示唆する。 ラットの行動実験に関しては、異動に際して実験系の再構築を行い、新たな装置での行動実験を開始している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度に確立した、メタ認知の監視と制御の神経基盤を切り分けるために必要な新規な行動課題を用いて参加者を増やして実験を行った。その結果、より多くの参加に対しても、予備実験と同様に課題に関する教示のを切り替えることによって、課題中のメタ認知に基づく行動選択を特異的に変化させ得ることを、より多くの参加者群に対して確認した。 本年度は上記の行動実験の結果を踏まえてさらに脳活動計測実験を進める予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により対面での実験に制約があり、また利用予定であった脳活動計測装置が工事等の関係で利用出来なかった。 そのため、計画を一部変更し、課題遂行中の自身のパフォーマンスに関するメタ認知が、それまでの行動選択とそれに応じた結果のフィードバックの履歴に影響を受ける度合いが教示の違いによって異なるかをオンラインでの非対面実験により検討することとした。これは、本研究で対象とするメタ認知、特にその制御過程については、それに基づく行動制御により得られる報酬や罰が変化するため、一般的な行動の最適化の枠組みでも記述可能であると考えたためである。オンライン実験とすることで、コロナ下での実験の制約を受けにくくなること、加えて大学の参加者プールよりも多様な属性且つ多数の参加者に実験を依頼できるようになることが期待できる。この実験計画の変更に応じて、オンラインで行動実験を行うためのプラットフォームと課題の準備、予備実験を行った。予備実験の結果、オンライン実験では対面実験よりも教示による行動の誘導が難しいことが分かったため、この点において実験方法の改良を進めた。 さらに、ヒト実験と並行して進めているラットの行動実験課題についても、メタ認知に基づく行動制御を強化学習の枠組みで扱うために適したパラダイムに改変して訓練を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては、本年度に本実験を開始したヒト成人を対象とした行動実験については、行動レベルでメタ認知の監視・制御過程の共通点と相違点を整理し、必要に応じて実験条件を加えた追加実験を行い、速やかに論文としてまとめ、国際専門誌に投稿する。 さらに、脳活動計測が可能になり次第、本来の計画に従いヒト成人を対象とした神経活動計測実験を実施する予定である。具体的には、自身の内的な状態の監視が特に関与すると考えられる記憶確信度の高低を自己報告するフェイズと、監視・制御の両過程が関与すると考えられるリスク・リターン構造を選択するフェイズにおける脳活動を比較することで、メタ認知の監視と制御の神経基盤の共通性とそれぞれの特異性を切り分けることを目指す。 これと並行して、オンライン実験については本実験を開始し、1つ以上前の試行での行動やその結果(課題の正誤等)のフィードバックが課題中のメタ認知に基づく行動制御にどういった影響を与えるか、またその影響が課題中にメタ認知の監視・制御過程のどちらがより要求されているかに応じて異なるかを精査し、その結果も論文としてまとめ、国際専門誌に投稿する。 ラットの行動実験については、改良した新パラダイムで取得したデータを強化学習モデルに当てはめるなどしてその行動の記述性、予測性を高めるとともに、ヒト実験からメタ認知への関与が示唆された脳部位からの神経記録の準備を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス感染症の影響により対面での実験に制約があり、また利用予定であった脳活動計測装置が工事等の関係で利用出来なかったため、脳活動計測実験に関して購入予定であった器具や謝金分の次年度使用額が生じたためである。この次年度使用額分は、翌年度にオンライン実験を本格化させ大規模な参加者を募る際の謝金や、脳活動計測実験が可能になり次第実験を再開する際に、参加者を増やして実施するための謝金に充てる計画である。
|