本研究では、脳内の分子生物学的プロセスの解析に広く用いられているモデル動物・マウスを用いて、社会的アイデンティティ形成に関わる神経基盤の一端を明らかにすることが目的であった。マウスは、集団で生活する種であり、自集団に属する個体と属さない個体を区別するという報告があることから、社会的アイデンティティの基盤となる行動・神経基盤を観察することができるのではないかと考えた。そのためにはまず、マウスで集団形成のプロセスと集団内および集団間の社会的関係を観察しやすい行動実験パラダイムを作製することが重要である。 本研究では、マウスが集団で1つのゴール(報酬の獲得)に向かって行う集団学習課題「綱引きタスク」を作成し、解析な検討を行う予定であった。しかし今年度も施設の関係で実験室を使えない期間が長く、年度内には前所属と同じような実験セットを完成させることができなかった。そこで、今年度は、初年度とは異なる素材や大きさの実験セットを用いて、「綱引きタスク」を行い、本タスクの普遍性を確認した。C57BL/6N系マウスを用いて3匹、または2匹のグループで綱引きタスクを行わせた結果、タスクを作成したシチュエーションとは異なるセット内であっても、マウスは綱引き行動を行うことが確認された。一方で、本研究課題でこれまで用いてきたICR系マウスとは異なり、多くのグループが報酬として用意したペレットを食べることはなかった。これは以前「対戦」パラダイムでC57系マウスを用いて予備実験を行った時と同様の結果であり、食餌制限を行わない状況下で新奇なものを食べるかどうかについては、系統差があることが示唆された。
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