研究課題
本研究では、児童期の注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: ADHD)における顔認知障害の神経基盤を非侵襲的脳機能計測によって実験的に検討する。特に、ADHD児における腹側経路の“顔の変化しない情報(人物情報)”の処理と背側経路の“顔の変化し得る情報(表情)”の処理に焦点を当て、NIRS計測によってその特異性を明らかにする。令和元年度は、表情刺激観察中のADHD児童の脳活動を計測を行った。表情認知パフォーマンスが治療薬(塩酸メチルフェニデート:MPH)の服用によって改善することを踏まえ、MPHとプラセボを使用した二重盲検ランダム化比較試験によって、怒り顔と幸福顔観察中の脳活動を計測し、MPH服薬による脳活動の改善が生じる領域を同定した。なお計測は自治医科大学の協力のもと進め、参加児童の服薬管理については医師の協力と指導のもと注意深く実施した。実験の結果、笑顔に対しては一貫して右下後頭回が活動する一方で、怒り顔では治療薬の服用後にのみ左下後頭回が反応したことから、治療薬の服用が表情の脳内処理を改善することが示唆された。本研究で得られた知見については、国際学会(Vision Sciences Sociey 19th Annual Meeting、The 15th Asia-Pacific Conference on Vision)・国内学会(日本心理学会)で成果発表を行い、査読付き国際学術誌に原著論文として投稿し査読修正を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた研究内容の1つを完了し、国内外で成果発表を行った他、査読付き国際学術誌に投稿し査読修正を行った。
今後は研究内容1について、進めていく予定である。神経順応パラダイムを用いてADHD児における人物情報の処理水準を明らかにする。まずは第1実験にて、ADHD児の側頭領域後部が顔の人物情報を処理しているかを検討するため、「複数人物の顔を提示する条件」と「同一人物の顔を提示する条件」における左右両半球後部側頭領域の脳活動を計測し、同一人物の顔に対して脳活動の低下(神経順応)が生じるか検討する。その後、ADHD児の同一人物の顔に対する神経順応が、顔の大きさ(第2実験)、向き(第3実験)、表情(第4実験)の変化に影響を受けないのかを検討する。なお、研究課題のさらなる発展のため、適宜行動実験なども行っていく予定である。
英文校閲費として使用予定であったが、英文校閲の請求が次年度に回ったため。該当金額については、次年度に英文校閲などに使用予定である。
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すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)