研究課題/領域番号 |
19K14494
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
跡部 発 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50837284)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 局所新形式 / 基本補題 / ラダー表現 |
研究実績の概要 |
モジュラー形式とは、豊富な対称性を持つ関数であり、その対称性から多くの数論的な応用が得られる。モジュラー形式にはウエイトとレベルという二つのパラメーターがある。また、モジュラー形式の中で特にHecke同時固有関数と呼ばれるものが重要な役割を果たす。レベルが1の場合にはHecke同時固有関数は数論的によく振る舞うが、高レベルの場合にはそうでないものもある。高レベルのモジュラー形式の中では、新形式と呼ばれるものだけを扱うと、レベル1の場合と同様に数論的な応用に辿り着く。それは新形式がモジュラー形式と保型形式とを結びつける役目を果たすからである。 新形式の局所版を局所新形式という。この理論があれば古典的なモジュラー形式論と現代的な保型表現論を結びつけることができると期待される。しかしながら、局所新形式の理論は現在ではほとんど発展していない。昨年度は京都大学の大井氏、北海道大学の安田氏との共同研究として、奇数次ユニタリー群に対する局所新形式の理論を確立した。他の先行研究では、局所新形式はRankin-Selberg積分の理論の応用として得られていたが、これは計算量が非常に多いという欠点がある。今回はそれは使わず、代わりに基本補題と呼ばれる定理の類似を示すことで、先行研究の理論を移送することにより局所新形式の理論を得た。基本補題とは現在の保型表現論における最高のリフティング理論である内視の理論の核心となる定理である。 また、昨年度には古典群におけるラダー表現の類似を定式化することに成功した。ラダー表現とは元来は一般線型群の表現の一種であり、扱いやすいクラスのうち最も一般的なものである。現在の一般線型群の表現論では、ラダー表現から始まる帰納法を用いるものが活躍しており、本研究によって、そのような研究を古典群に拡張できる可能性を秘めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は保型表現の分類である。保型表現とはレベルとウエイトという二つのパラメーターを固定すると有限個であることが知られている。そのうち、ウエイトは分かりやすいものであるが、レベルをどのように扱うべきかは難しい問題である。これは局所新形式の理論が一般的には確立されていないことに起因する。 昨年度には、奇数次ユニタリー群に対する局所新形式の理論を確立することができた。また、その証明も今までにない議論によるものである。そのため今後更なる局所新形式の理論の発展が期待できる。また、この理論を応用することで保型表現の分類を高レベルの場合にも実行することができるであろう。 古典群におけるラダー表現の概念を定式化することは長年の問題であった。今回の研究で得られた別の論文でそれが達成されたので、古典群の表現論において、今後多くの応用が得られると期待される。特に、一般線型群における様々な先行研究の類似を古典群の場合にも考えることができるようになる。さらには表現論における最終目標の一つである、古典群のユニタリー双対問題にも挑戦していけるようになるかもしれない。以上の成果から、現在までの進捗状況は概ね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は保型表現の分類のために、まずは、偶数次ユニタリー群U(2n)に対する局所新形式の理論を確立し、それと局所Aパラメーターとの関係を調べる。それらが成功すれば、U(2n)の保型表現をエルミートモジュラー形式と関係付けることが可能になり、モジュラー形式論の古典的な結果を移送することで、保型表現を分類することが可能であると期待できる。 偶数次ユニタリー群U(2n)に対する局所新形式の理論の確立のためには、局所テータ対応が使えると考えられる。これはモジュラー形式における志村対応の一般化であり、U(2n)の既約表現とU(2n+1)との既約表現との対応を与える。志村対応が新形式の間の対応を与えるという古典的な結果から、テータ対応もまた局所新形式を保つことが期待できる。逆に、テータ対応を用いることで、U(2n+1)に対する局所新形式の理論をU(2n)の場合へと移送できるのではないか、ということがアイデアである。実際に、これにはPanの論文の手法が使えると考えられる。 局所新形式の理論と局所Aパラメーターとの関係を調べるには、与えられた局所Aパラメーターを持つ既約表現を具体的に構成し、それらの導手を決定する必要がある。特殊直交群やシンプレクティック群については、同様の問題は2年前の研究で解決している。その時の手法が今回の場合にもそのまま適用できると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はヨーロッパへの出張を予定していたが、出張先の研究者が自身の研究費で来日されることになった。そのために海外出張が国内出張に変わり、次年度使用額が発生した。 今年度には海外から4名の研究者を日本に招聘する予定である。これは以前の使用計画にはなかったことであり、故に当初の計画よりも多くの研究費が必要となる。ここに次年度使用額を当てるつもりである。 また、今年度は海外出張(シンガポール・インド)に行くことを予定しており、そのためにも多くの旅費が必要になる。
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