研究実績の概要 |
本研究の大きな目標として、志村谷山予想の直接の一般化、すなわち「総実代数体上で定義された楕円曲線に対して保型性(ヒルベルト保型形式と結びつく性質)」を証明することが挙げられる。定義体が有理数体のアーベル拡大である場合にはある程度満足な結果が得られていたので、アーベル拡大でない場合に結果を拡張することが目的であった。保型性を示す際は楕円曲線の3,5,7等分点のなす表現E[3],E[5],E[7]が可約である場合が本質的な困難であるが、このような困難が生じないような定義体をうまく見付ける(定義体に課すべき扱いやすい条件を見付ける)というアプローチを採った。このもとで、以下のような結果を得た。 (1)Mazur-RubinによるDiophantine stabilityと呼ばれる理論(大域体上で定義された曲線やアーベル多様体の有理点が体拡大によって増大しないための条件を与えるもの)を、具体的なモジュラー曲線に適用することで、定義体に課すべき局所条件を見出した。 (2)良い素点におけるフロベニウス元が表現E[3],E[5],E[7]にどう作用するかを計算した。この計算のアイディア自体は前年度も用いたものだが、より網羅的かつ整理された計算を実行することによって、次のような成果を得た: a.剰余体の位数が2,3,4,8,13,16,または47であるような素点において、楕円曲線が潜在的に良い還元を持つ場合に、その楕円曲線が保型的であることを証明した。(これまでは13と47のみ見付かっていたが、リストを増やすことに成功した。更にこのリストが本アプローチで得られる最良の結果であることも分かった。) b.剰余体の位数が素数であり105を法として26,41,59,89,101,104のいずれとも合同でないような素点において、楕円曲線が潜在的に超特異還元を持つ場合に、その楕円曲線の保型性を証明した。
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