研究課題/領域番号 |
19K14515
|
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
大矢 浩徳 芝浦工業大学, システム理工学部, 助教 (90835505)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 量子ループ代数 / 量子Grothendieck環 / (q,t)-指標 / クラスター代数 |
研究実績の概要 |
パリ大学のDavid Hernandez氏との共同研究で,昨年度までにA_{2n-1}^(1)型とB_n^(1)型の量子ループ代数の有限次元表現圏の量子Grothendieck環の間に単純(q,t)-指標を保つ同型が構成できることがわかっていた.この種の同型はD_{n+1}^(1)型とC_n^(1)型,E_6^(1)型とF_4^(1)型,D_4^(1)型とG_2^(1)型の間にも存在することが予想されていたが,この拡張のためにはそれぞれの型で量子Cartan行列の逆行列を計算し,量子トーラスにおける変数の間の交換関係を何らかの方法で上手く書き下す必要があった.そうした中,今年度パリ大学の藤田遼氏と梨花女子大学校のSe-jin Oh氏によるQデータの研究が発表され,上記の量子トーラスにおける交換関係がルート系の言葉を用いて一般性を持つ形で記述されることがわかった.そこで,報告者とHernandez氏,藤田氏,Oh氏との共同研究が始まり,結果として上に述べたすべての型の組で量子Grothendieck環の間に単純(q,t)-指標を保つ同型を構成することに成功した.系として,非対称型の場合の単純(q,t)-指標の積の構造定数の正値性が,対称型の場合に知られていた正値性を用いることで新たにわかった.我々の単純(q,t)-指標を保つ同型はそれぞれの型でQデータを与えるごとに構成ができるという意味で組織的なものである.昨年度得られていたA_{2n-1}^(1)型とB_n^(1)型の間の同型はこの見方では特別なQデータに対応するものであった.さらに,同じ型であっても,2つの異なるQ-データを考えればそれに対して量子Grothendieck環の単純(q,t)-指標を保つ自己同型が得られることがわかり,この圏論的な意味付けは今後の研究対象である. 以上の結果は論文にまとめ,現在投稿中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初,上に述べた量子Cartan行列の逆行列の計算をそれぞれの型で行い,A_{2n-1}^(1)型とB_n^(1)型の量子ループ代数の有限次元表現圏の量子Grothendieck環の間に単純(q,t)-指標を保つ同型を構成したのと同様の方法で,他の型の組において同様の同型を構成することを計画していた.しかし,藤田氏とOh氏によるQデータの理論により,この計算部分の問題が一気に解消され,予想していたよりもきれいな形で全ての型に対して一般的に同型の構成することができた.上に述べたようにここでの構成はA_{2n-1}^(1)型とB_n^(1)型の場合においても新しいものを含んでおり,昨年度得られていた同型を特殊なQデータに対応する場合とみなすようなものとなっている. Qデータの取り換えで得られる量子Grothendieck環の自己同型の存在については,対称型の場合にはHernandez-Leclercの研究によって知られていたが,この自己同型が単純(q,t)-指標を保つかどうか,非対称型の場合にも同様の自己同型が存在するかどうかについては知られておらず,これは報告者が別の問題として以前から考えていたものであった.しかし,我々の自己同型の構成は対称型に限らず,また単純(q,t)-指標をいつも保つことが示されたため,これらの問題も同時に肯定的に解決されたことになった.これは当初の計画にはなかった進展である.さらに,我々の自己同型は単純(q,t)-指標の置換を引き起こすということから,ナイーブには圏のレベルでの自己同値としてこの対応が実現されることが期待される.これは今後の研究の対象である. 上記の通り,本年度は研究が計画通り進んだのみならず,予期していなかった結果やそれによる新たな問題意識が生まれたため,当初の計画以上に進展していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度得られた同型の精緻化として,同型で対応する既約表現の(q,t)-指標の間の具体的な変換公式を与えることを目指す. このためには,本年度得られた同型が量子Grothendieck環の量子クラスター代数構造と相性の良いものであるということを示す必要があるため,まずはこの検証を行う.なお,本年度得られた同型の結果とは独立に,A_{2n-1}^(1)型とB_n^(1)型,D_{n+1}^(1)型とC_n^(1)型,E_6^(1)型とF_4^(1)型,D_4^(1)型とG_2^(1)型のそれぞれの組において,自然に考えられるクラスター代数構造が本質的に等価(変異同値)になるということも現在わかっている.この等価性が本年度得られた同型と直接関係していると予想しており,この関係が明確にわかれば初めに述べた変換公式も導かれると期待している. また,現在のところ我々のアプローチは純代数的なものであるが,このような同型が存在することは圏論的に説明されるのが自然である.このため,上記の研究が順調に進んだ際には圏論的な方向からの研究も行う.この方向では現在,箙Hecke代数の表現圏と量子ループ代数の有限次元表現圏を関連させる一般化量子アフィンSchur-Weyl双対性を用いた柏原-Kim-Oh-Parkらのグループの研究が進んでいると考えられるので,この方面の情報を収集しつつ,研究を進める.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により,対面で予定されていた研究打ち合わせ・研究集会が多くの場合で中止となり,オンラインでの実施となった.このため,旅費として予定していた分の経費が使用されず,これを次年度に持ち越すこととなった. 2021年度も新型コロナウイルスの感染拡大の影響は続くことが予想されるが,現状では対面の可能性がある研究集会も予定されているため,感染予防対策を講じたうえで研究上必要な出張は行い,自身の研究成果の発表や研究打合せを行う.このため,2021年度は物品費のみでなく,旅費も計上する予定である.また,現在使用しているPCの調子が悪いため,本年度はPCの購入も行う予定である.
|
備考 |
arXivプレプリント2件: arXiv:2101.07489 (Ryo Fujita, David Hernandez, Se-jin Oh, and Hironori Oya), arXiv:2011.14260 (Tsukasa Ishibashi and Hironori Oya)
|