研究実績の概要 |
複素単純Lie環g_1,g_2に対して,そのunfoldingとして現れる複素単純Lie環が等しい場合,g_1,g_2のそれぞれに対応する量子ループ代数の有限次元表現圏の間に密接な関係があることが,近年多くの研究者によって観察されている.昨年度までの藤田遼氏,David Hernandez氏,Se-jin Oh氏との共同研究では,上記のようなg_1,g_2に対する量子ループ代数の有限次元表現圏の量子Grothendieck環らの間に,単純(q,t)-指標を保つ同型が存在することを示していた.この同型はg_1,g_2のそれぞれに対して,Q-データと呼ばれるデータを取るごとに構成されるものである. 一方,g_1,g_2に付随する上記の量子Grothendieck環には,量子クラスター代数構造がそれぞれ定まることが知られているが,これらの量子クラスター代数構造は(適切な意味でwell-definedな)無限回の変異列を通して互いに移りあうことが我々のこれまでの研究で観察されていた.これは,これらの量子Grothendieck環の間にクラスター代数構造に由来する同型も構成できるということを示している. 今年度の研究では,このクラスター代数構造に由来する同型が,我々が以前に構成したQ-データに付随する同型に一致することを証明した.その帰結として,非対称型の場合の既約表現の(q,t)-指標のもつ正値性や,クラスター単項式に対応する既約表現に対する(q,t)-指標がt=1でq-指標に特殊化されること(Kazhdan-Lusztig型予想)を証明した.さらにこれを用いて,g_1, g_2に対する量子ループ代数の既約(q,t)-指標らがある種の有理変数変換で移りあうという事実も証明した.これはクラスター代数の表現論への新たな応用を与えるものである. 以上の結果は論文としてまとめ,現在投稿中である.
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