研究実績の概要 |
本年度は, 圏論的力学系を中心に研究を行った. Dimitorov-Haiden-Kazarkov-Kontsevichは, 三角圏の自己完全関手に対して, その力学系的な複雑さの度合いを測る圏論的エントロピーという不変量を導入した. 圏論的エントロピーがいつスペクトル半径の対数と一致するか?という問題は, 圏論的エントロピーの研究において主要な研究課題である. 研究代表者は, 過去の研究で任意のK3曲面に対して, その導来圏の自己同値で圏論的エントロピーがスペクトル半径の対数と一致しない例を構成していた. Sheridan-Smithは, あるピカール数1の4次K3曲面についてホモロジー的ミラー対称性を証明した. 本年度は, ホモロジー的ミラー対称性によって上のK3曲面の導来圏の自己同値をシンプレクティック幾何学の観点から研究を行なった. Sheridan-Smithによるホモロジー的ミラー対称性において, シンプレクティック幾何学側では, 圏論的エントロピーが正であるようなトレリ型のシンプレクティック写像類を構成できることがわかった. 証明の過程で, 代数多様体の導来圏について, 圏論的エントロピーが基礎体の基底変換で不変であることを示した. また, シンプレクティック写像類の圏論的エントロピーの幾何学的な意味を調べるために, Hochschildエントロピーという不変量を導入し, 圏論的エントロピーとの間の不等式を証明した.(どちらも菊田康平氏との共同研究)
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今後の研究の推進方策 |
本年度研究したK3曲面の導来圏の自己同値が, Y. W. Fan, S. Filip, F. Haiden, L. Katzarkov, Y. Liuの意味でpseudo-Anosovになっているのかについて調べる. 当初計画していた有限対称性の研究については, 引き続き進める.
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