最終年度も、昨年度に引き続き、優リッチフローやそれに沿った熱方程式の挙動に関する研究を行った。しかし、最終年度は新たな論文を執筆し公表するには至らなかった。一方、学会や研究集会等での講演により、これまでに得ていた成果を広く公表することができた。さらに、研究期間全体を通じて得られた成果をまとめ、集中講義を実施することもできた。以下、4年間に渡り実施した研究の成果について振り返る。 まず本研究課題の当初の目標は、平均曲率流のII型特異点をエントロピーにより捉えることであった。ここでのエントロピーとは、Colding-Minicozziらが平均曲率流の特異点の複雑さを測る目的で導入したものである。初年度は当初の研究計画に従い、平均曲率流のII型特異点モデルの具体例に対してエントロピーの計算を試みた。しかし、具体的なエントロピーの計算は技術的に困難な場合が多いと判明したため、すでに知られていた他の量とエントロピーとの関係を調べる方針に切り替えた。その結果、Eckerの導入したとある単調量とエントロピーが、古代解上では無限遠で漸近的に一致するということがわかった。エントロピーは大域的な量である一方、Eckerの単調量は局所的な量である。これらが漸近的に一致するということは、エントロピーがEckerの単調量により局所化できるということである。このことは、一般には計算困難なエントロピーついて、別視点からの新たな計算手法を提案していると言える。 初年度の成果で古代解というものに興味を持ったため、2~4年目は櫻井陽平氏と協力し、優リッチフローに沿った熱方程式の古代解の研究を行った。そして、Perelmanによる簡約幾何を用いることにより、新たなLiouville型定理を示した。これを皮切りに、時間発展するリーマン多様体上の熱方程式に関する研究を推し進め、今後の課題を多数見つけることができた。
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