研究実績の概要 |
2018年度までにホップ代数のハイゼンベルグダブルと3次元多様体の理想単体分割を用いた普遍量子不変量の構成を行ってきた. この新しい不変量は, 結び目や絡み目の補空間の場合にはホップ代数のドリンフェルトダブルを用いた普遍量子不変量と一致する. ホップ代数がinvolutoryの場合には3次元多様体の位相不変量が得られる. ホップ代数がinvolutoryでない場合は未解決で, 枠つき3次元多様体の不変量が得られると予想している. 理想単体分割を用いた3次元多様体の普遍量子不変量は, 単体分割から得られる量子不変量であるTuraev-Viro不変量やホップ代数から得られるKuperberg不変量を導出すると期待できる. 2019年度はこれまでに引き続き, 枠つき3次元多様体の不変量の構成と, 計算しやすい特別な場合において上記の不変量との関係についての研究を進めた. 2019年7月1日-31日にCentre de recherches mathematiques, Universite de Montrealに滞在し, Roland van der Veenと共同研究を進めた. ハイゼンベルグダブルを使った3次元多様体の不変量と, Kuperberg不変量の関係を考察した. また, 有限群の群環をとり, 両者の不変量を具体的に計算して比べた. さらにGaussian表示から得られるホップ代数のハイゼンベルグダブルを使った場合を調べた. 2020年3月2日-28日に京都大学数理解析研究所に滞在し葉廣和夫氏と共同研究を行った. ホップ代数を幾何学的に実現することで, Kuperberg不変量のTQFTへの拡張を進めた. ホップ代数がinvolutoryでない場合の普遍量子不変量の構成にはまだわからないことが多く, 2020年度以降も引き続き多角的に研究を進めていく予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホップ代数がinvolutoryの場合は, 3次元多様体の位相不変量をcolored diagramという仮想タングル図式を用いて構成することができた. ホップ代数がinvolutoryでない場合はcolored diagramではnon-involutoryの性質を反映する幾何学的要素が足りず, 不変量構成がうまくいかなかった. そのためcolored diagramに枠やcombingなどの3次元多様体の情報を付加したN-graphを用いることにした. N-graphと関連する道具の勉強のために, 不変量構成に当初の計画より時間がかかっているが, その後の応用を見据えればここでN-graphに精通しておくことは必要であり, この枠組みで不変量が構成できれば研究の発展や応用はスムーズに進むと思われる.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きN-graphを用いて(枠つきもしくはcombingつきの)3次元多様体の普遍量子不変量を構成を進める. ホップ代数がinvolutoryでない場合の問題点は, colored diagramの交点に対応させるSテンソルが交点の平面への置き方により変わってしまうことであった. この交点まわりでの不変性を成り立たせるために枠やcombingの情報を取り入れる. N-graphではdiagramの辺に数字をつけることでそれらの情報を表す. この組み合わせ的情報から, 3次元多様体のどの幾何学的性質がハイゼンベルグダブルのSテンソルで捕まえられるのかをひとつづつチェックして調べる. 枠やcombingといった既存の幾何学的概念をそのまま使えるとは限らないので, 新しい幾何学的性質を導入することも念頭にいれて, 広い視野で不変量を構成しその意味を調べていきたい.
|