研究課題/領域番号 |
19K14523
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 咲衣 東京工業大学, 情報理工学院, 准教授 (40636263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | quantum invariants / knots and links / framed 3-manifolds / ideal triangulations / universal invariant |
研究実績の概要 |
Pachner(2,3)移動は3次元球体の2つの四面体による分割と3つの四面体による分割の間の移動である。3次元多様体の理想単体分割のbranching構造を用いて1つの四面体に行列を与えると、Pachner(2,3)移動は5つの行列の間の5角関係式に対応する。 R. Kashaevにより、ハイゼンベルグダブルのカノニカル元が5角関係式を満たすことが知られている。本研究では、ハイゼンベルグダブルのカノニカル元を理想四面体に対応させることで、3次元多様体の不変量を構成する試みを行なってきた。R2年度には寺嶋郁二氏とSerban Mihalache氏との共同研究として、有限次元ホップ代数がinvolutory、unimodular、counimodularの場合に閉3次元多様体の位相不変量を与えた。R3年度にはR2年度の結果を拡張し、任意の有限次元ホップ代数を用いてベッチ数が0の枠つき閉3次元多様体の不変量の構成を与えた。3次元多様体の表示にはR. Benedetti and C. Petronioによるnormal o-graphを基本として用いた。 令和4年度は枠付き閉3次元多様体に対する結果を執筆して投稿した。さらに結び目の補空間に対して上記の不変量を適用する方法を調べ、結び目の普遍不変量が補空間の枠つき理想単体分割から得られることがわかった。これは自身による平成30年の結果を改良するものである。令和4年度11月にはA. Beliakova (Zurich), R. Kashaev (Geneva), S. Baseilhac (Montpellier)を訪問し研究交流を行い、彼らの研究との関連や本研究の発展・応用について議論を深めることができた。交流をきっかけにR. Kashaev, E. Nakazawa, S. Garoufalidisと共同研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
R3年度に任意の有限次元ホップ代数を用いてベッチ数が0の枠つき閉3次元多様体の不変量の構成を与えた。R4年度にはこの結果を執筆し雑誌に投稿した。 これらの結果は本研究の主要な目的のひとつであり、研究は順調に進展した。さらに枠つき閉3次元多様体の不変量の構成方法を結び目の補空間に適用し、結び目の普遍不変量を再構成した。この結果は平成30年度に行なっていた研究の改良になっており、結び目と3次元多様体の不変量のどちらも含んだ統一的な理論ができつつある。これらの結果は本研究が始まったときから期待はしていたが、ここまでスムーズにいくとは思っていなかったので、計画以上の進展だった。さらに令和4年度11月にはA. Beliakova (Zurich), R. Kashaev (Geneva), S. Baseilhac (Montpellier)を訪問できたことで理論の発展や周辺分野との関連・応用を議論することができ、理解が深まり新しい視点からの研究の発展の可能性を見出すこともできた。
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今後の研究の推進方策 |
結び目の補空間に3次元多様体の不変量の構成を適用し、結び目の普遍不変量を理想単体分割を用いて再構成した。この普遍量は1成分の結び目の場合にはハイゼンベルグダブルに値を持つ不変量である。結び目の普遍不変量から、任意のReshetkhin-Turaev不変量が得られる。Reshetkhin-Turaev不変量はリボンホップ代数の有限次元表現を指定することで得られる基礎体に値を持つ不変量である。この表現をハイゼンベルグダブルの中で調べることで、Reshetkhin-Turaev不変量を理想単体分割から再構成することができると期待できる。これはJones多項式を補空間から構成することも含み、大きな未解決問題である。また、結び目の不変量からハイゼンベルグダブルのカノニカルな単純加群を用いてトレースを取ると、基礎体に値をもつ不変量ができる。この不変量はWitten-Reshetkhin-Turaev不変量となることが予想され、予想が正しければ理想単体分割を用いたWitten-Reshetkhin-Turaev不変量の再構成となる。Witten-Reshetkhin-Turaev不変量の絶対値は単体分割を用いたTuraev-Viro不変量から得られるが、Witten-Reshetkhin-Turaev不変量そのものを理想単体分割から得る方法は知られていない。またTuraev-Viro不変量に用いられる6j記号とハイゼンベルグダブルのカノニカル元を関係付けることでステイト和不変量との関係を明らかにすることも大切な課題である。これらの課題にひとつづつ取り組み解決していくことで本研究は大きく推進すると期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために出張を控えざるを得なかった。また、育児休業を取得したため研究を一時中断した。 令和5年度は講演や研究交流のために出張を行う。また研究に必要な書籍も随時購入する。
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