最終年度は前年度に続きグラフ上の種々の曲率次元条件の特徴付けの研究を行った。主にBakry--Emery型曲率次元条件の改良版である指数型曲率次元条件やψ型曲率次元条件の、熱流を用いた局所Poincare不等式との同値性について調べた。Lin--Liuなどによる先行研究と同様の手法でこれらの曲率次元条件から局所Poincare不等式に相当する不等式は得ることができたが、その逆は現時点で得ることができていないため今後の課題としたい。 研究期間全体を通しての成果は以下の通りである。(1) 全測度1の測度距離空間列の射影極限を構成し、特に曲率次元条件を満たす測度距離空間列の射影極限上の曲率次元条件に関する研究を行なった。(2) 無向グラフ上で定義されるLin--Lu--Yau型のリッチ曲率を有向グラフへ拡張し、Bonnet--Myers型定理やLichnerowicz型の定理など比較幾何的な性質を調べた。特に重みつきカルテシアン積に関するリッチ曲率の公式を得ることができた。(3) 有向グラフ上のリッチ曲率が下からおさえられていることと、熱流に関する勾配評価・熱流に関する収縮性が同値であることを得た。(4) 有向グラフ上でChungの最大直径定理の幾何解析的な証明を与えた。(5) グラフ上のBakry--Emery型曲率次元条件の改良版であるψ型曲率次元条件の熱流の勾配評価を用いた特徴付けを得た。
|