期間全体において,グラフ同変コホモロジーを軸に研究を行った。グラフ同変コホモロジーは抽象GKMグラフから定義される可換代数であり,トーリック多様体(toric manifold)の場合には非特異完備扇と等価なデータである。従って,トーリック幾何で知られている定理をGKM理論の枠組みに一般化することは自然な問題意識である一方,GKMグラフが非常に広い範囲の対象を見ていることから,実際に何が一般化できそうなのかは非自明である。例えば,同変コホモロジーの多項式環上の自由性に関するGuillemin-Zaraの予想は20年以上前に立てられたものであるが複素係数に限っても今だ未解決であるのに対し,トーリックの枠組みでは整係数のレベルでの成立が遥か以前より知られている。 本研究課題では,同変剛性と呼ばれる現象がGKMの枠組みでも成立することを見出し,さらに,符号不定性を同変全Chern類を用いて解消できることを明らかにした。これは任意のGKMグラフについて成立している事柄であり,前段で述べた問題意識の一端を解明したものになっている。 次の目標として,同変コホモロジーをZariskiスペクトラムの観点から見たときに一般にどのようなことが成り立つと期待されるか,その模索を行った。同変剛性の観点からすれば,次数付けからくるG_m作用や多項式環のZariskiスペクトラムへの射の言葉を用いて,同変剛性定理を函手的な再構成定理にまで精密化できそうであるが,この点については一般的な予想を立てる段階には至っておらず,予想の定式化が今後の課題として残された。
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