研究課題/領域番号 |
19K14539
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐々木 東容 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (60822484)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 測地カレント / 双曲曲面 / カスプ / サブセットカレント / 閉測地線 |
研究実績の概要 |
カスプ付き双曲曲面上の測地カレントとは,その曲面の上の重み付きの閉測地線を測度論的完備化であると予測されていたものである.今年度の研究では,この予測が実際に正しいことを証明することができた.これは極めて,大きな成果であると言える.予測の根拠としては,コンパクトな双曲曲面の場合には測度論的完備化であることがBonahonによって示されており,多くの応用が知られている. カスプ付き双曲曲面上の測地カレントを考える場合,カスプから出てカスプに向かう無限測地線が測地カレントとして現れる.これはコンパクトな場合には全く存在しないもので,大きな違いと言える.今回の研究では,そのような無限測地線をまずは閉測地線の無限列で近似することが研究の第一歩となった.加えて,自身が研究してきたサブセットカレントの理論が測地カレントにも応用できることに気づいたことで,研究が大きく進展した. 応用面としては,コンパクト双曲曲面上の閉測地線の長さに関する分布を調べる際に,測地カレントの大きな役割を果たすことが分かっている.すなわち,閉測地線全体の分布のような大域的性質を調べる上で,測地カレントは非常に有用である.特に,Mirzakhaniによる閉測地線の長さの分布に関する漸近的評価は当該分野に大きな影響を与えると共に,測地カレントの有用性の再認識につながった.近年では,Mirzakhaniの手法の様々な拡張が考えられているが,カスプ付き双曲曲面上のカレントを直接扱うものはまだない.上記の完備化定理を元に,カスプ付き双曲曲面上の測地カレントの理論をより発展させていきたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績で述べたように,当初の大きな目標であった,完備化定理を証明することができたため,研究の進歩状況は極めて順調と思われる.現在は,研究成果を論文にまとめている最中である.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では,2本柱として完備化定理と連続拡張定理を掲げていた.完備化定理については研究実績で述べたとおり証明ができたが,連続拡張定理に関しては当初の想定通り,カスプ付き双曲曲面上の測地カレントとコンパクト双曲曲面の場合とでは,大きな性質の違いがあることが分かった.特にカスプ付きの場合には,ある種の不連続性は解消不可能であることが分かった. そこで今後は,カスプ付き双曲曲面のカスプを強引に拡げて境界を付けることで,コンパクト化することを考えている.元のカスプ付き双曲曲面の情報をその上の測地カレント空間ではなく,コンパクト化した双曲曲面上の測地カレント空間に連続拡張をするという方針を立てている.現状少なくとも,閉測地線の長さに関しては,この手法が有用であることが分かっている.一方で交点数についてはまだ分からないことが多いため,今後詳細に調べていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
3月初めに予定していた,研究集会「第6回幾何学的群論ワークショップ」において,自身の参加の旅費宿泊費および講演者の旅費宿泊費の支援等をする予定であった.新型コロナウイルスの影響により,研究集会が中止となったため,次年度使用額が生じた. 2020年度の予定に関しては,新型コロナウイルスによる影響を強く受けるために,現状先行きを見通すことができない.参加を予定していた研究集会についても,中止が決定されたものが多く,現段階で用途を明確にすることは難しい.
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