研究実績の概要 |
カスプ付き双曲曲面上の測地カレント空間およびその拡張であるサブセットカレント空間について研究を行ってきた.いずれの空間に関しても稠密性定理が成立するかどうかは未解決で有ったため,その解決を目標としていた.最終的な結果として,この目標は完全に達成された.すなわち,いずれの空間においても稠密性定理が成立することを示すことに成功した.結果をまとめた論文は,ジャーナルGroups, Geometry, and Dynamicsに受理された(2022年2月).当該分野では多くの主要な論文が掲載されている雑誌であり,極めて満足のいく結果となった. 測地カレントとは閉測地線を測度論的に完備化した概念である,と言われることが多い.しかしながら,ここで言う「完備化」は定義から従うものではなく,上述の稠密性定理を示すことによって従う特徴付けである.本研究ではカスプ付き双曲曲面の場合を扱っているが,コンパクトな場合の稠密性定理については以前から知られている.本結果によって,面積有限な双曲曲面においては常に測地カレントは閉測地線の完備化と言えるようになり,理論的にきれいに整備された言える.応用面に関しては,前年度の実績の概要にて述べたとおりである. 稠密性定理を証明した後,本研究はコンパクト双曲曲面とカスプ付き双曲曲面との間のCannon-Thurston写像の研究へと移った.これは,境界付きコンパクト双曲曲面の境界をカスプに変形する中で自然に生じる写像を,カレントに拡張したものである.本年度の成果として,この写像が交点数の連続性を保つことを示すことができた.曲面上の閉測地線に関する交点数は境界をカスプに変形しても変化しないが,それらを完備化して得られる測地カレントで連続性を保つかは非自明であった.
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