研究課題/領域番号 |
19K14546
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷部 高広 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (00633166)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自由確率論 / ランダム行列 / Loewner chain / Markov-Krein変換 / 単峰性 |
研究実績の概要 |
藤江との共同研究において,ランダム行列の固有値分布と,その主小行列の固有値分布の差が,サイズ無限大の極限において,Markov-Krein変換によって記述されることを証明し,論文にまとめた。この結果は,Goel とYao (2020)の予想を解決したものとなっている。以前からMarkov-Krein変換はこのプロジェクトに関わるキーワードの一つとして認識していたが,今回,ランダム行列を介して思わぬ新たな側面を明らかになった。 福田,佐藤との共同研究で,自由確率論とランダム行列を用いて構成した新しい量子チャンネルに対するエントロピーの加法性の破れを証明し,論文にまとめた。また数年前から続いていたHuangとの共同研究を論文にまとめた。 植田との共同研究にて,自由独立な確率変数の最大値に関する解析を行ない,論文にまとめた。また植田,Wangとの共同研究において,確率変数の積の観点から,正の確率変数に対する「単峰性」概念を導入し,確率論,自由確率論の観点から解析を行ない,論文にまとめた。実数値の確率変数に対する「単峰性」とはおよそ,その確率密度関数がただ一つの点において最大値を達成するという性質であるが,確率変数の積の観点からは,確率変数の対数を見ることが適切であることを議論している. 2019年度から行っている堀田との研究において,単葉関数論で古くから理論が確立されているLoewner chainと,あるクラスの確率過程との全単射対応を構成することができた。2020年度においては,残っていた細かい技術的な問題を解決し,得られた結果を論文にまとめた。この結果においてはLoewner chainのgeneratorという概念が重要であることを見出し,これを定義した。今回の研究結果の観点から,確率論やLoewner chainに対する新しい解析手法を発展させることを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずFranz-Hasebe-Schleissinger (2020)によってMarkov-Krein変換が単葉関数論と単調独立性に関連する形で現れることがわかっていたが,今回の藤江との共同研究ではランダム行列の主小行列の固有値解析という思わぬ角度からMarkov-Krein変換が現れた。また植田との共同研究で解析した自由独立な確率変数の最大値に関しても,当初に予定していなかった方向性である。これらは期待以上の進展であった。 Huangと取り組んだ自由確率論における極限定理, Wang・植田と取り組んだ確率変数の積に関する単峰性, 福田・佐藤と取り組んだ量子チャンネルの共同研究は,いずれも予定通り論文として取りまとめることができた。Szpojankowski, Gumenyuk, Perezらとの共同研究は複数回のビデオ会議での打ち合わせと,メールでの意見交換,そして出揃った結果の論文取りまとめなど,順調に進んでいる。 Arizmendi, Lehnerと進めている共同研究については,ほぼ完成しているものの,メンバーの多忙さから,2020年度の進展は芳しくなかった。また当初から計画していたSLEとの関連性については,有力なアイデアが見つからないため,進展は芳しくない。 以上,期待以上に進展した部分とおおむね順調に進展している部分,進展が芳しくない部分があり,総合的に見るとおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在,コロナ禍において,海外出張が著しく困難になった反面,海外の研究者との遠隔ビデオによる打ち合わせがやりやすくなった。そこで,特にArizmendi-Lehner, Szpojankowski, Gumenyuk-Perezらとの進行中の共同研究を,ビデオ会議を利用して進めていきたい。いずれの共同研究も主要な部分は完成しており,残っているのは細部の技術的な部分を詰めたり,論文の体裁を整えるといった点である。 Huangと取りまとめた論文について,論文中に古典的な確率論の極限定理に関する新しい結果と,自由確率論の極限定理に関する結果が混在しており,読者が必要な箇所を見つけにくいと思われるため,論文を2つに分ける方向でを検討中である。 2020年度はメールでのやりとりのみであったが,今後はビデオ会議も検討する。 大学院生の藤江と取りまとめたランダム行列の主小行列に関する共同論文について,複数の国際研究集会や海外セミナーでの講演を予定している。また,この結果の発展として,自由確率論の観点から新しいアイデアが出てきたので,今後検討していきたい。 当初から考えていた本研究プロジェクトとSLEの関連を具体化するような有力なアイデアはまだ出ていないが,引き続き,国内の専門家と議論する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19流行のために予定していた出張がキャンセルになったため。 今後は書籍やタブレットの購入,国内出張,もし可能になれば,海外出張にも使用する予定である。
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