研究課題/領域番号 |
19K14546
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷部 高広 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (00633166)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Loewner chain / branching process / monotone independence / random matrix / bifree independence |
研究実績の概要 |
Collins, Hasebe, Sakuma (2018)において固有値が集積点を持たないような大きなランダム行列の解析のためにcyclic monotone independenceという概念が定式化された.これについてさらに詳細な研究をOctavio Arizmendi,Franz Lehnerと共同研究を行い,ランダム行列の解析とは異なる応用として,大きなグラフの隣接行列の固有値解析に応用できることを見出した. 人口密度などの時間発展モデルである分枝過程と呼ばれる確率過程を,複素関数論的な側面から解析を行った.特に,Loewner chainと呼ばれる複素関数論で古くから知られている道具を分枝過程に応用するという新しい解析手法を確立することができた.これまでのLoewner chainの応用範囲は,複素関数論に固有な問題を除くと,非常に限られていたが,今回の研究により,確率論への新しい応用を見出すことができた. 2000年ごろまでに非可換確率変数に対する複数の独立性概念が提案されたことを受けて,それらを分類する試みがなされてきた.代表的な成果として,Speicherと村木による分類定理が知られている.その後,2013年ごろから2次元以上のベクトル値非可換変数に対する独立性が色々と提案されるようになったが,独立性概念がどれほどあるのかは分かっていなかった.そこで,Malte Gerhold,Michael Ulrich 両氏との共同研究にて,さらに新しい独立性概念の提案を行い,また部分的に独立性概念の分類も行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的に当初の計画通りに研究は進んでおらず,さまざまな面で計画の修正が必要となっているが,修正したことにより大きな成果が上がったケースも多い.総合的には順調に進展していると考えている. 例えば,当初に計画していた,非可換確率過程に付随するマルコフ過程の研究はあまり進んでいないが,少し方針を変えて分枝過程に取り組んだところ,成果が得られた.分枝過程の研究については順調に論文を取りまとめ中である. また,Arizmendi, Lehnerとのcyclic monotone independenceについての共同研究は論文の取りまとめが進んで完成した.この論文ではcyclic monotone independence の概念がmonotone independenceと密接に関わることも分かった.そこで当初計画していたmonotone independenceの研究そのものではなく, cyclic monotone independenceの研究を行うことにより,さまざまな成果を得ることができた.例えば佐久間紀佳, Benoit Collins, Felix Leidと共に,cyclic monotone independenceが現れるような大きなランダム行列の固有値揺らぎの解析が予想以上に進展した. 一方で,研究計画のうちのSLEに関する側面については,現在までのところ,特段の成果は得られていない.
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今後の研究の推進方策 |
Cyclic monotone independenceはランダム行列の解析への応用がさらに期待できると考えており,引き続き検討していく.特に,ランダム行列の主小行列の固有値や固有値揺らぎの解析に関して藤江,Collins, 佐久間,Leidらと進行中の共同研究を完成させていく.オンラインでの討論に加えて,より効果的な議論のために京都大学に出張する予定である. 分枝過程に関して出そろった成果を論文に取りまとめて公表できる形にする.秋の日本数学会において,研究結果に関する特別講演を行う予定である.なお,これまでに解析した分枝過程は一次元の最も基本的な分枝過程であった.より複雑な,外部からの流入(移民)を含めた確率過程モデル,個体を種類別に複数に分けるmulti-type分枝過程と呼ばれる確率過程モデルや,空間を移動しながら個体数が増減するsuperprocessと呼ばれるモデルがある.こういったモデルにも本研究の手法を適用できるか検討するという方向性は自然なものと考えている.可能であればメキシコに出張して議論を行いたいと考えている. 本研究課題を進める中で,ランダムウォーク,分枝過程やレヴィ過程などの確率過程の列の収束を解析することが自然な問題として浮上してきたため,現在取り組んでいる.将来的には統計データ解析などにも応用できる可能性を持っていると考えている. 既にHuangと取りまとめた論文は既に公開されているが,学術雑誌に投稿する前に大幅に改訂することを予定している. Szpojankowskiと取り組んでいる研究について論文取りまとめを行う. 全般的に研究計画遂行の情報収集と公表,研究打ち合わせのために国内・国際研究集会への出席を検討している.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行により予定していた複数の出張が中止になったため次年度使用額が生じた.今後出張が可能になり次第,使用する予定である.
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