[最終年度の研究成果] (1) 摂動つきのランダム行列を扱う包括的な枠組みとして,巡回的単調独立性と自由独立性の両方を取り込んだ「B’型自由確率論」を提案した.この枠組みの応用として,2022年出版済み論文で調べたランダム行列の主小行列に対する新しいアプローチを得た. (2) サイズ無限の極限で固有値が離散的になるランダム行列モデルに対して,詳細な固有値揺らぎを計算することに成功した.モデルに応じて揺らぎの極限分布は正規分布や指数分布混合など様々なものになることがわかった. (3) ブール独立性に関する自己分解可能性について基本的な性質を解明した.特に,そのような分布は高々二つのatomを持つこと,対称な正規分布がブール自己分解可能であること,平均がある程度以上の正規分布はブール自己分解可能でないことを示した.
[研究期間全体を通しての成果] 全体的に本研究の特長は単調独立性の他分野への応用をさらに広げたという点である.まず既に知られていたLoewner chain,単位円周上のマルコフ過程とユニタリ単調加法過程の三者間の対応関係に加えて,単位円周上の加法過程との対応関係を構成した.この研究に動機づけられて,人口変化などの確率モデルとして知られている分枝過程に着目した.その結果,分枝過程の背後にLoewner chainの構造があることを発見し,Loewner chain,複素関数論の観点から分枝過程の期待値や絶滅確率といった量を解析した.ランダム行列について,自由独立性,単調独立性とそれに関連する巡回的単調独立性を組み合わせて,摂動を含むランダム行列を扱う自然な形の枠組みを構成した.その他,ブール畳み込みや自由畳み込みなどに対する諸性質を解明した.
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