本研究の目的的は、非有界な係数を持つ確率微分方程式と非衝突確率過程の「数値計算手法の構成と誤差評価」を研究することである。2022年度は以下の2 点について研究成果を得ている。①拡散係数が不連続関数である場合のα安定過程によって駆動される確率微分方程式に対するEuler--Maruyama 近似の誤差評価。②Cox-Ingersoll-Ross(CIR)過程に対するEuler--Maruyama 近似の誤差評価。
①について。ブラウン運動の場合と同様に、α安定過程によって駆動される1次元確率微分方程式は拡散係数が不連続な関数であっても道ごとの一意性が成立することが証明されている。しかし、これまでの研究では不連続性の問題点から、その数値解析手法であるEuler--Maruyama 近似はヘルダー連続である場合でのみ誤差評価が与えられていた。 本研究ではAvikainenによって証明された不等式を拡張し、局所時間に関する手法と組み合わせて適用することで、道ごとの一意性が成成立する条件の元で Euler--Maruyama 近似の誤差評価に関する結果を得た。 ②について。田中佑弥氏(第一生命保険株式会社)との共同研究である。ブラウン運動によって駆動される1次元確率微分方程式の拡散係数がルートで表される確率過程であるCIR過程は、数理ファイナンスにおいて広く応用されており、その数値解析は広く研究されている。特に、非負値の確率過程であるが、これまでの研究では、パラメータに仮定をおくことで、真に正の値をとる状況における数値解析の研究が主流であった。本研究では、CIR過程のパラメータに関する仮定に制限を置くことなく、またCIR過程の初期値も原点を取ってもよいという状況(非負値)において、拡散係数に関する不等式と負のモーメントの評価を組み合わせることで、通常のEuler--Maruyama 近似の誤差評価に関する結果を得た。 ①、②共に学術雑誌に投稿準備中である。
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