研究実績の概要 |
本研究はGKZ超幾何函数と呼ばれる特殊函数の積分表示の理論を研究して、大域解析を進展させることを目標とする。また、GKZ超幾何函数の諸分野への応用を模索する。本年度は前年度までの研究を基礎に、場の量子論におけるFeynman積分、代数統計の観点からGKZ超幾何系の応用について研究した。 Feynman積分は場の量子論における伝統的研究対象であり、青本和彦、Frederic Phamらの研究をはじめとして超幾何函数との関係も議論されてきた。近年は主に物理の側からFeynman積分の満たす可積分接続(Gauss-Manin系)をexactに計算する試みがある(IBP法)。報告者は高山信毅氏(神戸大学)、Vsevolod Chestnov, Federico Gasparotto, Manoj K. Mandal, Pierpaolo Mastrolia, Henrik J. Munch(Padova大学)との共同研究において、IBP法をGKZ系の積分表示の観点から見直した。Gauss-Manin系を計算するアルゴリズムをMacaulay行列と呼ばれる計算数学的概念を用いて確立した。 代数統計は、統計モデルを代数多様体としてとらえなおして研究する分野である。代数多様体が射影的toric多様体の場合には、Bayes推定から自然にGKZ超幾何函数の積分表示が出現する。報告者は、統計学で基本的な(構造的零を持つ)二限分割表モデルの場合にGauss-Manin系の交叉形式による閉じた公式を得た。この公式の表示には、超平面配置の理論における青本複体を利用した。応用としてモノドロミーのPicard-Lefshetz型の公式を導入できる。また、前年度までに得られたGKZ系の交叉形式の公式を二限分割表の場合に精密化した。この公式をrisa/asirに実装した。この成果を現在論文にまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
Feynman積分の満たすGauss-Manin系がGKZ系で完全に記述できるのは、one-loop diagramと呼ばれるクラスに限られる。大きな方向性として、Gauss-Manin系を(1)一般のone-loop diagramの場合にexactに記述する(2)multi-loopの場合にexactな公式を導出するアルゴリズムを確立する、の二つがあげられる。(1)は青本和彦氏の先行研究や、代数統計におけるHardy-Weinberg多様体の研究と密接に関係する。(2)は、対応するGauss-Manin系はGKZ系ではなく、その特異点への制限として記述される。これらの考察をもとに、現在、高山信毅氏(神戸大学)、Vsevolod Chestnov, Federico Gasparotto, Manoj K. Mandal, Pierpaolo Mastrolia, Henrik J. Munch(Padova大学)との共同研究が進展中である。 二限分割表モデルの定めるGKZ超幾何系は、一般化超幾何系、Appell-Lauricella超幾何系FA,FB,FD,青本-Gelfand超幾何系、津田超幾何系を含んだ一般化になっている。今回、二限分割表に対応するGKZ超幾何系に対して、Gauss-Manin接続の公式、その特異点集合の公式、Picard-Lefschetz公式など、モノドロミー表現を決定するために必要な公式が整備された。今後は、これらの結果を実際に応用し、二限分割表モデルの定めるGKZ超幾何系のモノドロミー表現の決定を目標に研究していく。
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