本研究はGKZ超幾何函数と呼ばれる特殊函数の積分表示の理論を研究し、大域解析を進展させることを目標とする.昨年度までの研究によって,GKZ系の応用研究が進展したが,その中で次の事が強く認識された:場の量子論におけるFeynman積分,代数統計における周辺尤度積分など,応用上重要な超幾何函数は,GKZ超幾何函数の特異点への制限である. この状況に対応するために,1.微分方程式系の特異点への制限,2.差分方程式系の二つの観点から研究を行った. 1. 昨年度に引き続きPadova大学の物理グループと神戸大学の高山信毅氏と共同研究を行った.GKZ系の特異点への制限を計算する方法として,(i)Pfaff系のDeligne latticeの計算法(ii)D加群の制限の,Macaulay行列による計算法が開発された.これらは高山信毅氏の尽力によって,risa/asir package "mt_mm.rr"として実装されている.これらの手法を様々なFeynman diagramに適用した論文は近日中にArxivに公開される予定である. 2. Max Planck Institute for Mathematics in the SciencesのSimon Telen氏との共同研究により,(GKZより一般の)多変数超幾何系を差分方程式系として定式化した.この差分方程式系はtwisted cohomologyをlocal cohomologyのMellin変換として表示することで自然に現れる.また,自然な可換極限を取ることができ,これはlikelihood idealと呼ばれる,代数統計で盛んに研究されてきた対象になる.また,差分方程式系の立場からcohomology交叉形式の特徴づけも与えることができる.これらの成果はarXiv:2301.13579にて公開されている.
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