最終年度は,Ismael Bailleul氏(Universite de Rennes 1)や楠岡誠一郎氏(京都大学)とともに,準線形一般化KPZ方程式の研究を主に行なった.これまでのHairerの正則性構造理論は,主要部が定数係数である半線形放物型偏微分方程式にしか適用できないものだったため,その手法を準線形方程式に拡張することは大きな問題の一つであった.研究代表者はこの共同研究において,すべての劣臨界パラメータに対し,方程式の繰り込み可能性の証明をまず解析的な部分において完成させることができた.この結果は先行研究を大きく上回るものである. また研究期間を通しては,本研究課題の目標である「(1)Hairer理論とGubinelli理論の橋渡し」と「(2)具体的なSPDEの解析」という2点においてそれぞれ大きな成果を挙げることができた. (1)については,Bailleul氏との一連の共同研究により,Hairer理論とGubinelli理論の解析的な面における共通構造を見出し,それらの同値性を示すことができた.これは本研究課題における最も大きな成果の一つである.一方で,確率論的な面における同値性を示すまでには至らなかった. (2)については,(i)動的exp(phi)_2モデルの時間大域解の一意存在(河備浩司氏(慶應義塾大学),楠岡氏との共同研究),(ii)摩擦項をもつ非線形確率波動方程式の時間大域解の一意存在と,その非相対論的極限などの正当化(福泉麗佳氏(東北大学),戌亥隆恭氏(大阪大学)との共同研究),(iii)準線形一般化KPZ方程式の繰り込み可能性(Bailleul氏,楠岡氏との共同研究)といったテーマについて,それぞれ先行研究を大きく上回る成果を挙げることができた.
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