研究課題/領域番号 |
19K14560
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
中津 智則 芝浦工業大学, システム理工学部, 准教授 (50732898)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 確率微分方程式 / 離散・連続時間最大値 / 経路依存型係数 |
研究実績の概要 |
確率過程の最大値に関して、連続時間最大値を離散時間最大値で近似するという立場から研究を行った。特に確率密度関数に着目し、離散時間最大値の密度関数の解析に重点を置き研究を行った。この点について、ブラウン運動の離散時間最大値の確率密度関数の新たな表現を得ることが出来た。 離散時間最大値の確率密度関数の表現は、特性関数を用いた非常に複雑な表現が知られているが、今回得られた表現は極めて具体的かつ簡単な表現である。この極限として、連続時間最大値の密度関数が得られ、さらにその収束のオーダーも出せると思っているがそこまでは今のところまだ得られてはいない。 また遅れを持つ確率微分方程式(Stochastic Differential Equation,SDE)について、新たな伊藤の公式を導くことが出来た。遅れを持つSDEに対する伊藤の公式は、知られている結果があるが、今回はより具体的な形の伊藤の公式を導いた。さらにこの公式を用いて、遅れを持つSDEに対して、伊藤テイラー展開を導くことが出来た。今回導いた伊藤の公式は考える時刻によって、空間パラメータの数が異なるという必ずしも単純な形をしておらず、一見伊藤テイラー展開を行うことが困難に思われるが、適切な指標の集合を導入することで、この困難を乗り越えることが出来た。この展開を導くことは、遅れを持つSDEの解の確率密度関数の下からの評価を得るための第一関門であると当初から考えていたので、今回得られた結果は一つの重要なステップであると言える。しかしながら、当初の目標である前述の遅れを持つSDEの解の確率密度関数の下からの評価はまだ得られてはいない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は一年目でブラウン運動について、離散時間最大値の確率密度関数の連続時間最大値への収束オーダーまで導く予定であったが、途中から遅れを持つ確率微分方程式(SDE)の研究に興味が湧きそちらに取り掛かってしまい、前者の研究に専念できなかった。このため、最大値に関する研究が遅れている。 また、遅れを持つSDEに対する伊藤テイラー展開を得ることが出来、これを解の密度関数の下からの評価に応用する段になり、そのための文献調査を行ったところ当たった文献の手法を習得するのに少し手こずっている。
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今後の研究の推進方策 |
ブラウン運動の密度関数については、離散時間最大値についてある程度良い表現が得られたので、近しい研究者とともに研究を進めていこうと考えている。 遅れを持つ確率微分方程式に関しては、伊藤の公式と伊藤テイラー展開が得られたが展開に含まれる多重確率積分が伊藤積分ではなく、スコロホッド積分であるためその評価にはMeyerの不等式を用いないといけない等、従来の方法とは異なる方法を使うことが予想されるが、恐らくこれらの困難は乗り越えることが出来ると思われるので、今までと同じ流れで研究を行おうと考えている。また、今回得られた伊藤の公式、伊藤テイラー展開は記号が極めて煩雑になると思われるが多次元に拡張出来そうであるので、一次元の場合で結果が得られた後には多次元への拡張も視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
後期に予定していた出張が新型コロナウイルス拡大のため、軒並みキャンセルされたためそのための予算が余った。前年度は発表を行う機会があまりなかったため、今年度は積極的に研究発表を行おうと考えている。そのための予算としたい。
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