研究課題/領域番号 |
19K14561
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
田中 亮太朗 東京理科大学, 基礎工学部教養, 講師 (90826463)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バナッハ空間 / バナッハ加群 |
研究実績の概要 |
バナッハ空間の非線形構造に基づく分類は、バナッハ空間の種々の性質の本質を解明する上で極めて重要であることから、多様な視点から現在も盛んに研究されている。本研究課題では、バナッハ空間やバナッハ加群などの比較的広い枠組みで定義可能な非線形構造を駆使し、非線形同型写像に基づくバナッハ空間の分類理論を精密化することを目指している。2020年度は、特に、位相的・幾何的な観点から研究を推進し、次のような成果を得た。 (1)バナッハ加群の幾何的性質と関連が深いモジュラー・バーコフ=ジェームズ直交性の概念を導入し、その基本的性質を明らかにした。特に、バナッハ空間の間の有界線形作用素が成す加群において、モジュラー・バーコフ=ジェームズ直交性に関する左対称点を特徴付けた。これは、2019年度に発表したヒルベルト空間に対する同様の結果を拡張したものである。 (2)弱Rickard C*環の遺伝的C*部分環において、その双対空間の単位球が汎弱angelicであること、汎弱点列コンパクトであること、及び環がそのコンパクトな要素の閉線形包であることが同値となることを示した。 (3)連続関数環の間にモジュラー・バーコフ=ジェームズ直交性を保存する全単射が存在するとき、それらはバナッハ環として同型であることを示した。この結果においては、モジュラー・バーコフ=ジェームズ直交性を保存する全単射は非線形でもよく、これにより、モジュラー・バーコフ=ジェームズ直交性に関するバナッハ加群の非線形分類の可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的は、バナッハ空間を種々の同型により分類することにより、バナッハ空間の性質の本質を解明することである。2020年度は、2019年度より蓄積していた実験的な結果を踏まえて、バナッハ加群におけるモジュラー・バーコフ=ジェームズ直交性の概念を導入し、連続関数環に対して、モジュラー・バーコフ=ジェームズ直交性の構造に基づく幾何的な非線形分類が可能であることを示した。これは、本研究の目的に適う結果である。また、位相的な方面でも、弱Rickard C*環の遺伝的C*部分環において、双対空間の単位球の汎弱angelicityが特徴付けられるなど、進展が見られた。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、バナッハ空間におけるバーコフ=ジェームズ直交性に基づく非線形分類理論の構築を目指すとともに、より目の粗い非線形分類の構築にも着手し、バナッハ空間の種々の性質がどのような構造に基づいて決定されているのかを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、参加を予定していた学会、研究集会、研究打合せ等が中止またはオンライン開催になり、旅費として計上していた予算が執行されなかったために次年度使用額が生じた。2021年度の予算については、専門書等研究資材の購入に充てる物品費や論文の校正費用およびオープンアクセス化費用として使用するとともに、新型コロナウイルス感染症の状況が改善した場合には、研究打合せ等のための旅費として使用する予定である。2020年度に引き続き、2021年度も使途を正確に予測することは困難であるが、社会情勢に合わせて、研究成果発表費用と旅費の比重を慎重に検討したい。
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