研究課題/領域番号 |
19K14564
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浜向 直 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (70749754)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 粘性解 / 動的境界値問題 / 平均曲率流方程式 / 決定論的ゲーム / 比較定理 / ハミルトン・ヤコビ方程式 |
研究実績の概要 |
非線形偏微分方程式、特に物質間の境目として現れる「界面」の運動を記述する放物型方程式の初期値・境界値問題を研究対象とする。特に、平均曲率流方程式のような特異性を持つ方程式の問題や、不連続性を伴う問題を、微分方程式の弱解の概念の一つである粘性解の理論に基づいて調べる。解の存在と一意性の確立や、解の漸近挙動の解明を通して、界面発展現象を記述する非線形偏微分方程式に数学的な基礎付けを与えること、そして粘性解理論を深化・発展させることを目指す。 令和元年度は、次のことを研究した。 (1)動的境界値問題の決定的離散ゲーム解釈、特に、曲率流方程式のゲーム解釈の応用について:決定的離散ゲームに基づく、動的境界条件下の曲率流方程式の粘性解の表示公式を利用し、境界付近での界面の肥大化や凸性保存などの幾何学的性質を調べた。本研究は、福岡大学の柳青氏との共同研究である。 (2)完全非線形放物型方程式の、退化動的境界値問題に対する粘性解理論について:動的境界条件であって、未知関数の法線方向微分に依存しない、退化した条件下での初期値問題を考えた。領域が半空間の場合に、境界上で適当な連続性を満たす関数のクラスにおける、粘性解の一意存在定理を確立した。また、非退化な動的境界条件の漸近問題との関係を調べた。さらに他の境界値問題、特にディリクレ問題の解との関係を明らかにした。 (3)高木関数を初期値とするハミルトン・ヤコビ方程式の粘性解の挙動、特に、特異性の伝播について:初期時刻における特異点(微分不可能点)が、時間経過と共にどのように伝播するかを調べた。初期条件を、全ての点が特異点である高木関数とした場合に、任意の点において、そこから出発する一般化された特性曲線を全て特定した。本研究は、富山大学の藤田安啓氏・山口範和氏との共同研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)の離散ゲーム解釈の問題では、ゲームに基づく解公式の応用として全空間の場合に知られていた事実を、動的境界値問題に対しても導くことができた。 (2)の退化動的境界値問題の課題では、元は、未知関数の時間微分の値を指定する形の境界条件に限定して比較定理と存在定理を証明していたが、適当な条件を満たす非線形境界条件に対しても同じ結果を導くことができ、当初の想定よりも一般的な結果が得ることができた。 (3)の特異点伝播の研究で得られた結果の系として、初期値が局所リプシッツ連続な場合に知られていた、非特異な一般化された特性曲線が存在するための、初期点の劣微分に関する必要十分条件が、高木関数を初期値とする場合も成立することが明らかになった。初期値の正則性を落とした場合の特異性伝播の研究に繋がる手がかりを得た。 以上一連の成果が得られたことから、おおむね順調な進展と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)、(2)の動的境界値問題の研究では、特に方程式が1階の場合、従来の粘性解理論でよく知られた最適制御や微分ゲームの値関数としての解の表示やその応用が可能かどうかを議論したい。特に、動的境界条件が退化している場合に、値関数が境界まで連続となるための条件に関心がある。ここから、より一般的な解の一意存在定理が得られることが期待される。また現在の(2)の成果は、領域の境界が平らな場合に限られているので、領域の形状の一般化にも取り組みたい。さらに方程式も、特異性を許す形のものへと拡張する方法を模索したい。 (3)の特異性伝播の研究では、方程式や初期値の関数のクラスの一般化が今後の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:感染症拡大に伴う出張キャンセルで、出張費の支出が予定よりも少なくなったため。また印刷費や会議費などの諸経費も抑えられたため。 使用計画:研究情報収集のための書籍や、成果をまとめるための電子機材の購入費等として支出予定である。
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