研究課題/領域番号 |
19K14565
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西口 純矢 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (60813392)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遅延微分方程式 / 時間遅れパラメータに関する解の滑らか依存性 / ソボレフ空間 / パラメータを持つ不動点問題 / 無限次元力学系 |
研究実績の概要 |
定数の時間遅れをパラメータとして持つ遅延微分方程式について,その解の時間遅れパラメータに関する滑らか依存性の研究を行った. 遅延微分方程式を数理モデルとして採用するとき,時間遅れは特定の決まった値ではなくパラメータとして含まれる.したがって,その数理モデルの妥当性を考えるためにも時間遅れパラメータの推定が必要である.また,ネットワーク上の力学系や時間発展する偏微分方程式などの空間的に拡張されたシステムから遅延微分方程式を取り出すという観点では,時間遅れは元のシステムと遅延微分方程式をつなぐ重要なパラメータである. 一般に,パラメータを含む遅延微分方程式の解がそのパラメータに滑らかに依存するかという問題は微分方程式論の観点から基本的であり,遅延微分方程式がパラメータに関して滑らかであれば解もパラメータに滑らかに依存することは基本的な事実である.一方,時間遅れは特別なパラメータであることが知られており,履歴関数の空間を連続関数のなすバナッハ空間に取る通常の方法では解は時間遅れパラメータに滑らかに依存しない. 先行研究では,履歴関数がリプシッツ連続であることを前提とし,そこにソボレフノルムと同値なノルムから定まる位相を入れたノルム空間を履歴関数の空間として採用していた.このために,その履歴関数の空間はバナッハ空間ではなく,パラメータを持つ不動点がパラメータに滑らかに依存することを示す一様縮小定理をそのまま使えなかった. 本研究では,履歴関数がリプシッツ連続であるという前提を見直し,ソボレフ空間を履歴関数の空間として取れることを示し,それが「平行移動の $L^1$ における微分可能性」という観点から自然であることを明らかにした.この意味で,本研究は先行研究の結果を拡張するだけでなく,時間遅れパラメータに関する解の滑らか依存性のメカニズムを明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
解の時間遅れパラメータに関する滑らか依存性では満足のいく結果を出すことができたが,申請者は,2019年4月から12月まで新学術領域「次世代物質探索のための離散幾何学」にて雇用されており,本研究課題の推進に制約があったため.
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今後の研究の推進方策 |
時間遅れパラメータが定数であるというのは単純化された設定であると言える.ネットワーク上の力学系や時間発展する偏微分方程式などの空間的に拡張されたシステムから遅延微分方程式を取り出すという観点では,時間変数や未知関数に依存する時間遅れを考える必要がある.そこで,解の時間遅れパラメータに関する滑らか依存性の問題を,時間変数や未知関数に依存する時間遅れについて考えたい.さらに,中立型と呼ばれる微分方程式に拡張することも考えたい. この研究から,時間遅れが小さいときのダイナミクスの研究や,時間遅れとネットワーク構造の関係性の研究につなげたい. さらに,エルニーニョ現象の気候ダイナミクスと時間遅れの関係性などの応用の観点を視野に入れながら,理論と応用のフィードバックを考えたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者は,2019年4月から12月まで新学術領域「次世代物質探索のための離散幾何学」にて雇用されており,本研究課題の推進に制約があったため.新型コロナウイルスの情勢次第であるが,国際研究集会参加等の海外出張で使用予定.
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