研究課題
時間遅れの構造はネットワーク上の力学系や時間発展する偏微分方程式・格子微分方程式などの空間拡張系 (spatially extended system) から得られうる.このことを念頭に置き,微分方程式の時間変数および空間変数に関する解の漸近挙動を位相力学系とその大域アトラクタの枠組みで理解するための基礎的な理論を展開した.距離空間を相空間とする連続時間または離散時間の位相力学系における大域アトラクタは,相空間の任意の有界集合を時刻無限大の極限で吸引する最大コンパクト不変集合である.「任意の有界集合を吸引する」という強い吸引性のため,大域アトラクタに制限して得られる力学系は元の力学系の漸近挙動の情報を十分備えていると考えられる.力学系の相空間が無限次元バナッハ空間であるような無限次元力学系に対しては,相空間がコンパクトでも局所コンパクトでもないことは制約的であるが,大域アトラクタのコンパクト性は無限次元力学系における種々の制約を乗り越える鍵となりうる.実際,大域アトラクタを考える際の基本的なピースである相空間の部分集合のオメガ極限集合は,その部分集合があるコンパクト集合に吸引されるという極限的な意味でのコンパクト性により非自明(すなわち,空でない集合)になる.距離空間を相空間とする連続時間または離散時間の力学系においてはこのようなオメガ極限集合の性質は基本的であるが,相空間が一般の位相空間である場合や時間集合が実数や整数以外の一般の場合には「部分集合のオメガ極限集合がいつその部分集合を吸引する空でないコンパクト集合であるか」(オメガ極限コンパクト性)は必ずしも明らかではなかった.本研究では,距離空間を相空間とする連続時間または離散時間の力学系に対して部分集合の「漸近コンパクト性」の概念を拡張し,漸近コンパクト性とオメガ極限コンパクト性の同値性を明らかにした.
3: やや遅れている
時間遅れの構造と空間拡張系の関係を理解するために位相力学系と大域アトラクタの観点で一般的な考察を行ったが,この研究に時間を要したため.
以下の多角的な視野から研究を推進する:(i) 時間遅れパラメータに関する解の滑らかさの問題において,時間遅れパラメータが状態依存の場合,(ii) 気候ダイナミクスのフルモデルと時間遅れ微分方程式のモデルとの関係性の考察,(iii) 時間遅れネットワーク.
新型コロナウイルスの影響で出張がなかったため.
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Topology and its Applications
巻: 287 ページ: 107451~107451
10.1016/j.topol.2020.107451