研究実績の概要 |
未知関数の時間微分が未知関数の過去の情報にも依存する微分方程式を遅延微分方程式と呼ぶ.遅延微分方程式においては,未知関数のある時刻での値は初期値問題における初期条件を構成せず,その時刻から一定の時間だけ遡って得られる区間における未知関数の情報が必要となる.このようにして得られる関数を履歴切片と呼ぶ.遅延微分方程式のダイナミクスは,力学系としては履歴切片の連続関数空間における時間発展として捉えられる.この観点での遅延微分方程式の数学的定式化を遅れ型関数微分方程式と呼ぶ.
1. 定数の時間遅れをパラメータとして持つ遅延微分方程式について,その解の時間遅れパラメータに関する滑らか依存性の研究を行った.2. 微分方程式の時間変数および空間変数に関する解の漸近挙動を位相力学系とその大域アトラクタの枠組みで理解するための基礎的な理論を展開した.3. ネットワーク構造と時間遅れの関係性を理解するために,平衡点の線型安定性の時間遅れパラメータ依存性について研究を行った.4. 自励系の線型遅れ型関数微分方程式に対して,その主要基本行列解が$[0, \infty)$において局所 Lipschitz 連続であることを示した.
5. $\mathcal{M}^p([-r, 0])$に属する初期履歴関数の下での軟解は$[0, \infty)$において局所絶対連続で,そのほとんど至るところの意味で存在する導関数が局所$p$乗可積分であることを示した.とくに,$p$が無限大の場合には,このことは$\mathcal{M}^\infty([-r, 0])$に属する初期履歴関数の下での軟解が$[0, \infty)$において局所 Lipschitz 連続であることを意味する.したがって,この結果は主要基本行列解の正則性に対する結果の拡張となっている.
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