ホモクリニック接触を持つ決定論的力学系を微小摂動すると無限個の吸引周期点を構成できることがNewhouseらによって知られており、一方でAraujoは、絶対連続ノイズ下では物理測度が高々有限個になることを証明し、可微分力学系理論に少なくない影響を与えた。これらに関連して次のような成果を得た。 (1) 桐木紳氏(東海大)、相馬輝彦氏(東京都立大)との共同研究において「万能性」という統計的複雑性に関する概念を導入し、ホモクリニック接触を持つある3次元力学系についてこの性質が頑強であることを示した。さらに、桐木氏、相馬氏、李暁龍氏(華中科技大)、E. Vargas氏(USP)との共同研究で、この結果(の改良版)を頑強な2次元力学系に拡張した。 (2) 昨年度に中村文彦氏・豊川永喜氏(北見工大)、P. Barrientos氏(UFF)との共同研究で得られた、Araujoの結果の一般化に関する結果について、これをさらにノイズがMarkov過程由来であるようなものに拡張することに成功した。 (3) Araujoは時間平均の存在と有限性までしか結論していないが、物理ノイズ下では中心極限定理なども成立する。これは準安定性にまつわる問題と強く関係しており、これを背景として準安定カオスについて研究を進めた。これは多岐に渡り、中村氏、S. Lloyd氏(XJTLU)、S. Vaienti氏(CIRM)、G. Froyland氏(UNSW)、C. Gonzalez-Tokman氏・J. Atnip氏(Queensland)、P. Varandas氏(Porto)、田中晴喜氏(鳴門教育大)、鈴木新太郎氏(東京学芸大)らを含む複数のグループとの研究となる。その他、J. Leppanen氏・平野純氏(東海大)との共同研究で、Poisson過程のようなランダム時間に対するカオス力学系の極限定理を証明した。
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